2013/11/01
無題

笠松家はもともと、宮司の家系だった。荒ぶる神を奉り、豊作の神と人々に信じさせ、そうであるように神を沈めた。神というものは絶対でいて、なかなかに、人を蔑ろに出来ない。信仰心を糧とする者たちは、信仰さえ無くなってしまえば、もう、幽霊にも劣るのかもしれない。それほど落ちぶれるまで、何もしない神などは、どこにもいないのだが。

笠松は理解した。この屋敷は、この目の前の赤い着物の日本人形を神体とした、社なのだと。ココは奉られた人形が作った、神の領域だ。この神が、もともと何をしていたもので、どういう経緯で神となり、どの部類の神として凄し、何時頃から忘れられたのかなど、推して量れるものではない。笠松幸男には、圧倒的な経験不足が立ちはだかっていた。

「なぁ、"神様"。あんた、昔、どうやって邪神を祓ったんだ?」

へんじなど、帰ってこない。第一、俺が神さまだと思っていた彼は、本当に神なのだろうか、と思う。先ほど、宮地が彼を"幸男"と呼んだのが、気になるのだ。俺はどこまでも、宮地家の現当主・清志には叶わないらしい。

きっと、森山は、宮地が"欲しい"と一言いえば、手に入ってしまうような存在なのだろう。きっとそれは、性転換であろうと、成し遂げられる。だが、頭首の正妻にニューハーフはありえないだろうから、きっと、正妻には別の女性があてがわれるのだ。その場合、森山はずっと日影に追いやられて過ごす。宮地はきっとそんな目に合わせはしないだろうから、森山は男として、宮地の隣にい続けるのだろう。もちろん、どちらになろうとも、森山は、自分の妻を娶って、子どもを先につくってしまうことが前提になるのだが。

『アレは、森山の中でも、旨そうだ。きっとあれが、今世の最大なのだろうな。』
「・・・食うんじゃねーぞ。」
『心配されんでも、食わぬわ。まだそれほど落ちぶれておらん。信仰するものが一人でもいればな。』


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