Gift | ナノ

外科医と涙のお嬢さん
※夢絵






なんとまぁ、ローくんもお嬢さんも幸せそうでございますねぇ…本編の切なさがある分余計に思ってしまいました…!
荒ぶりまして小噺なんぞこさえてしまいましたー。穏やかな二人をありがとうございましたん。



『くれないの想い出』

秋島の秋は紅の色で満ちていた。その色付きは驚く程に力強く、まるで一葉一枚ずつの最後の命の発露とでもいうべき鮮やかさであった。
惜しげも無く散り敷かれた紅の絨毯はまさに極上。そして天気も実に上々である。
ここを逃さない手は無いと言ったのはハートのクルーの…誰であったろうか。なにぶん皆同じ意見だったので文句は何処からも出ない。
ハートの海賊団はこの行楽日和を心ゆくまま謳歌していたのであった。

「小春日和で…風も気持ちいいね、ロー…」
「そうだな…」

紅葉の壮麗さと賑やかに戯れているクルー達よりも少し離れてキャプテンである男と、もう一人小柄な女が握り拳一つ分だけ隙間を開けて座っていた。
しかしその隙間には二人の手が置かれ、やんわりと絡み合わさっていてお互いに柔らかい眼差しを向けていた。ただならぬ関係と一目でわかる甘やかな雰囲気が漂っていたのであった。
…割り込もう無粋な輩は馬に蹴られるどころかバラバラにされてしまうだろう。

「紅葉、何枚か拾って持って帰ってもいい?」
「何ら問題は無いが…何に使うんだ?」
「旅の想い出に取っておきたくて。」
「…おまえが望むなら、写真でも撮るか?」
「うん。写真も素敵だね。」

彼女はやんわりと微笑み、『手で触れることのできる想い出が、欲しかったの。と囁いた。

「ローと来たところを、『ここはこんな事があったねー』って二人で話したくって。」
「それで『触れる』か、」
「そうなの。貝殻とか、押し花とか…掌で愛でながら何気無い想い出話を交わせたら、しあわせだなぁって…」

あまりにもいとけない望みに海賊であるはずの男は、この上なく穏やかに目尻を緩めてしまった。
愛しい己の恋人との何気無い幸せたちに絆されて、感情に逆らわず彼女の柔らかな膝に頭を落ち着けてしまう。木洩れ陽よりも微風よりもこの女が何より一等、あたたかで柔らかいと、男は心の底から熱い想いを震わせていたのであった。

「…幾らでも叶えてやる。おれが、な。」
「うん…。ありがとうね、ロー。」

訪れる微睡みと彼女の優しい掌に包まれて男は幸せに秋のひとときを噛み締めていたのであった。
全く、秋晴れは実にあたたかい。男はそれだけ頭に描いて夢の世界に旅立ってしまった。



おしまい。



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