参考に既製品も見てみようっと。
「うわぁ…きれい…おいしそう…っ。」
普段頑張っている自分へのご褒美に、そんな台詞が浮かんでしまうのも無理はない。ハート形のチョコレートにテディベアがちょこんと座っている凝ったチョコまで目白押しだ。
おっと、いけないいけない、目的は参考までに、なのだ。
「心の声が顔に出てる、ってのかいお嬢さん。」
「えっ?」
「目がキラキラしてるぞなまえ。…どれが気になってるんだ?」
突然すぐ近くから聞こえたのは耳にすっかり馴染んだ低音。振り仰げば見事な白髪と、ほんのり漂う煙草の香りに呼ぶ名前が勝手に口から転げ落ちる。
「ベック。」
「よォ。」
チョコレートを前にして悩める乙女に声を掛けるのはマナー違反だと思っているが、あんまりにも可愛い顔をしていたものでつい。ちょっかいを出したくなったんだ、許せよ。
頭を撫でられて、目尻が緩んだかんばせを見せつけられてはなまえは完敗だ。いつだって勝てた試しはないが。
「…ベックにどんなチョコ作ろうかなって、悩んでたの。」
「そりゃ良いニュースを聞いた。今年はこっちかと思ってたんだ。」
ベックマンはこつこつと指の節でショウケース鳴らして、口角を上げてみせるのだ。
「手作りがいいの?」
「おまえがくれるならなんだって喜ばしいんだが…敢えて言うなら、答えはイエスだ。」
「ふふっ、美味しいのができるように頑張ります。」
「応援してる。」
さてそろろろお別れか。しかしながらこの男は彼女より一枚も二枚も上手な男であるからして、別れ際に一つ注文をつけたのだった。
「ラッピングは出来ればパールホワイトのリボンで。チョコレートの箱とおまえの首もとにそれぞれ巻いてくれ。」
『どっち』も欲しいものでな、ともう一度なまえの頭をひと撫でして男は別れの言葉を囁くのだった。
……パールホワイトと反比例するように真っ赤になったなまえはさてはて、きちんと買い物ができるのか。答えは14日かの男だけが知るのだろう。
『ベックマンエンド』
ウィスキー入り生チョコ(予定)