んん?あの帽子は…
「おお、なまえじゃ。」
「やっぱりカクだったんだね。」
「まさかこんなところで会うとはなぁ。」
「そうだねぇ。」
「思考が似とるんじゃろ。」
「ふふっ、そうかも。」
「そうじゃ。」
カジュアルな格好のカクの片手には有名店の小さな紙袋がぶら下がっていた。金色のロゴが妙に眩しいそれはなまえからすれば敷居の高すぎる老舗の一品だ…確かこれは広告の真ん中を飾る目玉商品だった筈。
「……うん?こいつがどうかしたか?」
「ごめん、見過ぎてたね。」
「やはり男が買うのは変じゃな。」
照れ臭くて足の裏がむずむずしているのだろう。そんなカクは紙袋を大層重たそうに揺らすと『カリファめ』と小声で呟くのだった。
「カリファさん?」
「いや、その。……カリファのやつに『待ってるだけの男はつまらない』と言われてしもうて。」
「うん。」
「で。逆チョコなんぞとTVで観てのぅ。どうせなら美味いもんをと探しに来たんじゃ。」
なまえは甘いもん、好きじゃったろ。とはにかみながらカクは微笑う。ぽりぽりと頬をかきながら小さな紙袋を重そう…いや。大切な物のように彼女へと差し出すのだった。
「ちょっと早い、おまけに場所はデパ地下じゃが。わしの気持ちじゃ、なまえ…受け取ってくれんか?」
極上のチョコクリームを口に放り込んだような、幸せがなまえの体いっぱいに広がっていく。目の前の照れ臭そうな笑顔に心がきゅんとして、思わずほうっとため息まで生まれてしまった。あぁなんて可愛いひと。
「素敵なチョコをありがとうカク。」
「喜んでもらえてなによりじゃ。」
「私からのチョコレートも楽しみに待っててね?」
「首を長ぁくして待っとるわい。」
今度は私がカクを喜ばせる番、となまえは張り切って買い物へ。二人手を繋いで歩いて帰り、そして彼の首が本当に長くなってしまわないように超特急で手作りチョコレートを拵えるのだ。
『カクエンド』
トリュフチョコレート