乙女は街へ買い物に | ナノ
あれ?あそこにいる背の高い人は…


「…あれ?キッド…?」
「…っ!おま、っ。…ンで今いるんだよ…」
「バレンタインの材料を買いに、」

  バレンタイン一色のデパ地下にいるのは殆ど女性ばかり。男性は…当然目立つ。それも相当。そしてもうふたつばかり追加するならこのキッドという青年は大柄で見事な赤毛だから尚の事よく目立っていた。ダークチョコの中からホワイトチョコを見つけるくらいには簡単だった。
  いやしかしどうしてここに?

「…バレンタイン、だろ。」
「うん。」
「男も最近は渡すって聞いてよ。」
「逆チョコって、やつかな。」
「おゥ。」
「だからキッドもここにいたんだねぇ。」
「……で、なまえはなんか言う事あるんじゃねェのか。」

  いたたまれないのはキッドばかり。なまえはほのぼのとしたまま彼のむず痒そうにしている眼差しに小首をかしげて応えるのみだった。

「っくそ!ここ居心地悪ィンだよ!行くぞ!」
「きゃっ…!」

  なまえの為のチョコレートは手に入る事なく、しかしなまえの手を握りずんずんと歩き出してしまうキッドは…やはり目立っていた。

「…顔、にやけてっぞ。」
「だって、キッドが可愛いなぁって思っちゃって。」
「ハァ?!」
「お菓子一生懸命選んでる姿が、かわいい。」
「だっ誰が可愛いんだよ、おまえに選ぶんだ真剣になるに決まってるだろ、」
「…あ、その、」
「おまえの方が可愛い。……自惚れじゃねェならおれのチョコレート買いに来てたんだろ。それも『手作り』」
「は、ぃ…。」

  デパートから外へ出て少々歩いて、それで漸く二人の足は止まる。お互い耳はほんのりと紅色がさしていた。

「あー…デパ地下に戻れねェよな。」
「結構目立ってたもんね…」
「帰りにスーパー寄ってくか?」
「うん。」
「んで、おれン家で作れよ、チョコ。」
「いいの?」
「たりめーだ。」

  手は繋いだまま、なまえとキッドは出来るだけゆっくりと歩き出すのだった。少しでも長くこの甘酸っぱい気持ちを味わいたいから。
  この甘酸っぱさが蕩けるまでの甘さになるのはもう少し、後。


『キッドエンド』
ハート型のミルクチョコレート
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