乙女は街へ買い物に | ナノ
クリームたっぷりのガナッシュケーキ


  チョコレートに合うのは赤のバニュルス。これだけは外せないと二月に入る前にワインクーラーに突っ込んだ己だが、青田買いなどとはこれっぽっちも思ってはいない。
  誰にも邪魔されない自宅、目の前にはそわそわと身じろぎながら己を見上げるなまえ。そして甘い、かおり。

「あの、受け取ってもらえたら、嬉しいです…。」

  味見をしたので、味は変じゃない筈です、とおずおず差し出された紙袋の中身に口角は意識せずとも勝手に上がり、その丁寧な包装になまえの真心を垣間見た。
  懸命に作ってくれたと直ぐに分かる。そして己が紙袋を受け取った時の笑顔の愛らしさと言ったら…本当に咲きたての、いっとう美しい花のかんばせにも勝るとも劣らず。

「ケーキを作ったの。…ミホークはワインが好きだから、それに合うようなのを頑張って、作ってみました、」
「…奇遇だな。おれも丁度いいワインを手に入れたところだ。」

  己はグラスの準備、なまえはケーキを切り分けて席に着く。予想した通り彼女が作ったガナッシュ・ケーキは美味そうだった。折角だ、となまえの分も用意させて共にフォークを刺して葡萄の香りを楽しむ。

「お味はいかが…?」
「ワインによく合う。…実に美味い。」
「はー…よかったぁ。」
「なんだ、不安だったのか。」
「うん。甘過ぎたらどうしよう、とかいろいろ。」
「なまえの作るものはなんでも美味い。ぬしの愛情が篭っているのがよくわかる。」
「あの、その、褒めてもらっちゃって、ありがとうございます…」

  喜んでもらえて本当によかった、とはにかむなまえに血液が逆流してしまいそうだ。全くもっていじらしい事ばかり言ってくれる、さてこのままどうしてくれようか。ガナッシュごと食ってやろうかバニュルスよりも酔わせてしまおうか。

「……ワインよりもチョコレートに合うものを、知っているのだが…食わせてくれるな、なまえ。」
「ぁ…ミホーク…、」
「ぬしの、うすい肌の下に隠しているもの、すべて…おれに食わせてくれ。」

  乞う様な口振りであったが、とっくに床に押し倒してしまっているのだ。何を今更と自嘲してやったが、珍しくなまえから口付けを賜ったので気にはしない。

「…これは、重畳。」
「きょうは、バレンタインなので、少し積極的になった方がいいかなとか思いマシテ…」
「成る程。ならおれも期待に応えよう…寝られるとは思わん事だ。」
「へっ、」

  さて、この甘ったるさに己はいつまで正気を保っていられるだろうか。深い口付けをしてしまえばそんな台詞はすっかりダークブラウンの天鵞絨に掻き消えてしまったのだった。


『ミホークエンド』
ガナッシュケーキ

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