乙女は街へ買い物に | ナノ
『フランボワーズの酸味がいい。…刺激的なのもオススメさ。』



  フランボワーズ、フランボワーズ…まるで呪文の様に頭の中で繰り返してなまえは可愛いベリーに似合うお菓子を考え直すのだった。
  あぁ、そういえばあのひとは能舞台に上がる時、フランボワーズそっくりの紅を引くんだったっけ。

「イゾウ、今頃どうしてるかなぁ…」

  私のカレは女形、と不格好なリズムを口の中で転がせば次に想うのは『逢いたいな』という切なくも愛おしい感情だった。

「…!」
「…!!だか…ちがう、」
「あれ、なんだか騒がしい…?」

  デパ地下の壁際、ベンチが並んでいる人けの少ない場所で誰かが言いあっている。しかもその内のひとつはさっきまで逢いたい、と願っていた人物のそれで…。
  なまえは手に持っていたチョコレートを戻すと慌ててそちらに駆けて行くのだった。

「イゾウッ、どうしたの…?!」
「なまえどうしてここに…あぁ、バレンタインか、」
「え?その子キミの友達?雰囲気全然違うねー。」
「とも、だち?」
「こいつ、おれの事女だって信じ切ってねぇ…さっきからずっと言い寄ってくるんだ気持ち悪い反吐が出る。」

  女顔だからかイゾウは性別を間違えられる事がある、それも結構な頻度で。追加するならこのイゾウという男は性別を間違えられるのが我慢ならないタチであった。

「そこで、なまえ、ちぃっと協力しておくれ。」
「あ、うん。何をすれば…」
「じっと…そのまま…。」
「…ん、ぅ…」
「えええええ。」

  イゾウの瞳を覗き込んだその瞬間、唇は紅のよく似合う男のそれで塞がれてしまうのだった。
  触れたのは一瞬、しかし目の前にいるナンパ男には効果抜群だったらしい。

「おれは、男だよお兄さん。絶対に裏切れない、こんなに可愛い恋人がいる。おれの為にチョコレートを買いに来てくれた好い人さ…お呼びじゃないんだとっとと消えちまいな。」

  見事な啖呵であった。すごすごと帰っていったナンパ男を見送って、イゾウはなまえの手引くと「厄落としだ、イイトコ行こうか…?」と紅色がよく似合う微笑みをみせるのだった。
  なまえは、断れた試しは一度だってない。



『イゾウエンド』
フランボワーズ・チョコレート
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