あまいお薬
「もっと落ち着きなよ」
「うるさいちょっと黙って」
「悪いけど俺疲れてるから」
「小学生からやり直せば?」
「自惚れないでくれる?」
小湊先輩から受けた、数々のことば。
いやほんとに、我ながらメンタル強いなって思う。普通こんなこと言われ続けたら病むよね。
最近、なんで先輩のこと好きになったんだろうって考える。
…答えはいつも決まってるんだけど。
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小湊先輩との出会いは、数か月前。友達に誘われて野球部の試合を見に行った時に出会った。
あの日私は待ち合わせの時間に遅刻しそうで、走ってた。
球場なんて来たことなかったからばたばた走り回って待ち合わせ場所に急いでた。
けど普段そんな走り回ることなんてないから、足がもつれちゃって盛大にずっこけた。
しかも、目の前にいる人を巻き込んで。
「いてて…」
「痛いのはこっちなんだけど、早く退いてくんない?」
「え…あ、ご、ごめんなさい!」
そう、この時小湊先輩と出会ったんだ。
「あ、あの、ほんとにごめんなさい。お怪我はありませんか…?」
「平気、そっちこそ怪我はない?」
「へ、あ、私はぜんっぜん!」
「そう、よかった」
すごい爽やかな笑顔で、私が悪いのに私の心配してくれて…見事に射抜かれてしまったんだ。
けど別れ際に言われた言葉にムカついて、その時は射抜かれたこと後悔した。
「それじゃ俺はもう行くから」
「あ、はい。ほんとにすみませんでした、それでは」
「…ああそれと、アンタもう少し痩せた方がいいかもね。潰されるかと思った」
「なっ…!」
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…ほんと、世の中どうなるかなんて分かんないよね。好きになって後悔して、けどまた好きになったんだから。
あのあとの試合で先輩を見かけて、あーあの人!って叫んで、目が合って、また不敵に笑われて、ドキッとしちゃって、プレーが一々格好良く見えて…。
「…悔しい」
「何が?」
「…なんでもありません」
「ふぅん、どうせ俺のことでしょ」
「分かってるなら聞かないでください」
「口答えするなんて随分と偉くなったね」
「…だって、先輩全然かまってくれないし意地悪ばっかだし、いっつも私ばっかり好き好き言ってますもん」
「あっそう、そんなに不満があるなら別れようか」
「ほら、また意地悪する…分かってるくせに」
意地悪する時は決まってあの時の不敵な笑みが出てくる。私が断れないのをいいことに、好きなのをいいことに、意地悪してくる。
いっそのこと嫌いになれば楽なんだろうけど、それでも好きなんだから私はどうしようもない馬鹿だと思う。
ちょっと飴もらうだけで嬉しくなって、ドキッとしちゃうんだから。
「なまえ」
「…なんですか」
「はあ、ほんとめんどくさい。ほらこっち向いて」
拗ねてる私を見た先輩は、めんどくさいと言いながらも私にかまってくれる。
…別れないでいてくれる。
今だって、先輩の方見たらすぐに抱き締められてキスされた。
「好きだよなまえ」
…ずるい。
耳元でそんなこと言われたら、ドキドキしちゃう。
普段全然言わないから、たったそれだけで満足しちゃう。
全部、許しちゃう。
「これで満足でしょ」
「…もっとって言ったらもっと優しくしてくれるんですか?」
「調子乗らない」
「…ケチ」
「なに、そんなにいじめられたいの?」
「甘やかされたいです」
「…はあ、じゃあ今日は特別に飴の日」
「ん…先輩のそういうとこ、好きですよ」
「いいから黙ってて」
「何だかんだ、先輩も私のこと好きで仕方ないんですよね」
「黙っててって言ったの聞こえなかった?」
先輩は俗に言うドSだけど、その分甘やかしてくれる時はすごく気分がいい。それに普段甘やかしたりなんてしないからか、心なしかぎこちないし、今みたいに私がデレたら照れる。
照れ隠しでまた毒吐いてくるんだけど、それすら心地いい。
たまにしかもらえない飴は、大きくはないけどすごくあまい。
あまいあまい飴は、私を酔わせる薬。
だから今日もこれからも、きっと私は先輩に酔いしれ続ける。
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