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どうして俺?そう思った。が、柊牡丹は不敵な笑みを浮かべるのだ。
「ね?だから言ったでしょう?」
鳳鏡夜の日記@
竜胆は泣き疲れたのか、兄を抱きしめる体勢で眠っていた。その手を解いて柊牡丹は布団をかけ直した後俺に目をやった。
「…鏡夜君、竜胆がごめん、ありがと」
柊牡丹に名前を呼ばれるのは今日が初めてだった。幼等部の頃から同じクラスだったが、まるで接点がないのだ。それはいつか教えたと思うが。そしてこいつが俺に話しかけてきたのは身体測定の時に軽くと、こんなに喋ったのは過去に一度だけ。そう、竜胆が来る二日前の事だ。それを思い出すと時間が経つのは早いと感じた。
「…多分もう大丈夫。俺も竜胆も体調は悪くないからさ。ちなみに俺が倒れたのは今回が初めてなんだ」
彼は小さく笑った。その笑い方はまるで竜胆そっくりだった。繕った笑いなら何度か見たが、自然な笑みは初めてだった。
「…俺ね、本当は君達皆にお礼を言いたい。竜胆を変えてくれてありがとうってさ。でも、時間もあんまり無いし…鏡夜君、俺を一発殴ってくれる?出来たら顔以外」
突拍子も無い発言に俺は思わずはぁ?と声を出した。突然殴ってくれ、等と他人に言われた事はかつてない。
「…竜胆があんな性格になったのは俺のせいだからさ。まぁ、昔から優しすぎたのは変わり無いんだけどね」
柊牡丹は切なそうな目で竜胆を見ていた。
「…だったら尚更俺はお前を殴るわけにはいかないな」
「…どうして?」
「俺はこれでも竜胆に感謝している。竜胆があの性格で良かったと思ってる。でなきゃ、今こうしてここに居ないだろうな、俺もあいつも」
竜胆がいなかったら俺はどうなって居ただろうか。環とはつるんでいたかもしれないが、この芽生えた感情は無かっただろう。それにも気付かずに居た事だろう。今の俺だから言える。もし竜胆がいなかったら俺はこんな感情を知らなかったに違いない。
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