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次の日、二人はクラス別行動で訪れたバルビゾンへと再び足を運んでいた。時刻は六時。

「…あははは、日差しが嫌がらせの様――…」

竜胆は車の外で大きな深呼吸をした。中の鏡夜はぶすぅとしたまま、というよりはげっそりとしたままだ。

「鏡夜様、朝です。そろそろ起きられた方がよろしいのでは」

「…起きてる。というか寝ていない。こんな狭い車の中で眠れるわけがないだろう」

昨日パリに戻ってきたのは夜中の事だった。そのままホテルで休み出直す事も出来たが二人はそれを選ばなかった。竜胆こそ女性なのだから車内で寝かせるわけにはいかないという紳士の対応をした使用人達だったが、キャンプみたいねと嬉々としながら言い、鏡夜の肩に頭を預けて最初に寝たのは言うまでもない。

「鏡夜。おはよ」

誰のせいで寝れなかったのか。それも少しは考えて欲しいと鏡夜は深い溜め息を吐いた。旅行の自由行動は今日の夕方まで。そして明日には空の上。そうなるとホテルに戻っている時間でさえ惜しいのだ。

「それにホテルに戻って眠ったりしたらきちんと起きれる自信がなかった」

それが一番の理由に違いない。低血圧にプラス疲れで眠気はピーク。だが、竜胆はそんな様子も見せずに何度も大きな深呼吸をしていた。

「…竜胆。何故お前はそこまで元気なんだ…」

「いや、もう眠気と疲れがMAXでどうでも良くなっちゃったー…あはは」

その笑顔に力はない。もう無意識に笑っている様にしか思えなかった。

「しかし…さすがに限界だな…息苦しいし体は痛いし肩は凝るし堀田のいびきはうるさいし」

鏡夜は車から出てきてふらふらと歩き出した。竜胆は慌ててその横に並んだ。

「どうせ道を訊ねるふりをして訪問するにしても早すぎるだろう。ここで寝る。もう少し日が昇ったら起こしてくれ」

鏡夜は道端に寝転んだ。

「鏡夜ぁ!?だ、大丈夫!?何かもう今猛烈に写真撮りたい気分なのだけれ――どっ!?」

竜胆は突然襲ってきた衝撃にその場に座り込んだ。そう、犬が竜胆に飛びつき頬を舐め始めているのだ。それはアントワネットによく似た犬だった。

「ハチベエ?ハチベエ?あんまり早く歩かないで…」

その時には鳳家の使用人達は車内へ隠れていた。

「あら、ごめんなさい。汚してしまったかしら?」

確かに自分の服に犬の足跡が着いてしまったが気にする程でもない。むしろ唾液で頬がべろべろだが、平気ですと顔を上げようとした時、犬の飼い主は鏡夜を見る様にしゃがみこんだ。

「おとといの…?」

そして鏡夜の顔と竜胆の顔を見て少し驚いた顔をした後、優しくとても優しく微笑んだ。竜胆はその顔を見て大きく驚いて鏡夜の体を揺すった。竜胆は目を何度も擦ったが見間違いではない。

「ちょっと待ってね。父と母を呼んでくるわ」

そう言うとその女性は離れて行ってしまった。

「ちょっと鏡夜!起きて!起きてってば!」

この状況を私一人でなんとか出来るはずがないじゃない!その知恵を今使わないでどこで使うつもりなのよ!あぁ、もう。私も寝たいわ。竜胆は鏡夜の体に額を当てた。


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