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鏡の前でにっこりと微笑んだ。今日のメイクも完璧。目尻まで引いたラインは少し持ち上げてつけまつげとセットで猫目風に。チークは春らしく濃い目のピンク。シャドウはオレンジ系にしてラインをぼかすグレーを入れて。ハイライトとノーズシャドウは少し抑え目でナチュラルメイク。グロスは春の新色。髪は肩につく位のボブを編み上げカチューシャ風に。女子の制服にストッキングは淡い黒。
「今日も完璧」
自画自賛したいくらいだ。最後にもう一度毛先を弄ってからメイク道具を片付け、設置してもらった三面鏡の扉を閉じ、準備室から出た。
「はぁ〜い、皆さん、今日もご指名ありがとう〜」
「牡丹の君!お待ちしていましたわ!今日もお美しいわ」
「えぇ、本当に。そうやっていますと女性よりも美しいんですもの。少し羨ましいですわ」
「何を言っているの、お嬢様方。私程度でこれぐらいになれるのよ?本物のお嬢様方ならもっと美しいに決まってるじゃない。と、言う事で今日は誰から始めましょうかね?」
持ち運び用のメイクボックスを取り出すと女の子達は目を輝かせる。
「今日は私が」
「はいはーい。じゃあ、隣座ってくれる?今日はどの様なメイクがお望み?」
「春ですので、やっぱりピンクとか淡いカラーのメイクが良いの」
やっぱり春と言ったらピンクよね〜そう言いながらコットンの化粧水を付けて目の前の女の子の肌に優しく叩き込む。いつからこうやってメイクをしてあげる事になったのだろう。それは謎だが今となってはそれ目当てで通っている女の子達が大勢いる。
「牡丹の君、そのグロス素敵ですわね」
「あら、目敏いわね、流石女の子!実はね、これうちの会社の新色なのよ。まだ販売はしていないのだけど、あなた達なら特別に予約承るわよ。娘の私のお陰よー」
その言葉にクスクスと控え目に笑う女の子達。
「何か面白い事言ったかしら?」
「もう、牡丹の君ったら。牡丹の君は“娘”ではなくて“息子”ですわ」
「…あら、忘れてたわ!最近女装癖のお陰で自分の性別間違えちゃうのよね。困ったわ。言っておくけれど、私、女装が趣味なだけで同性愛者ではないのよ?それだけは忘れないでね、可愛らしいお嬢様方」
牡丹の君と呼ばれる人間の人気は不思議なものだった。女装趣味という変わり者。だが、女装すれば完璧な女性に見える。が、中身は男性、さっぱりとした性格で相談したくなる。頼りに出来る。軽快なトークを聞きたい。元から美しいがメイクを加えれば更に美しい。そのメイクの腕前はプロそのもの。メイク術を教わりたいとも思う。だが、常に女装しているわけではない。クラスでは普通に男の格好のまま、喋り方も立派な男性。女顔の美少年として外見の人気の他、家柄、成績はAクラス。そして女心も分かるだろうと勝手な想像から男子生徒から度々相談を受ける程。だが、そんな牡丹の君には大きな秘密がある。
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