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「竜胆?大丈夫か?」
「あぁ、平気」
ただちょっと心配しただけ。あの日遅れて第三音楽室にやってきた光と馨は雨にあたりびしょ濡れ。それだけではない。どこからどう見てもおかしい二人。竜胆は迷わずかけよったが光はその竜胆の手を弾いたのだ。馨も小さくごめんと言うだけ。今は自分が出て良い場面ではなかった事を思い知った。自分のお節介も大概にしないと嫌われてしまうわよね。竜胆は小さく溜め息を吐きながら背もたれに大きく寄りかかった。そうして見えるのは豪華なシャンデリア。成田国際空港桜蘭専用機が窓の外で動いていた。ここは出発前の特別ラウンジだった。
「鏡夜君、牡丹君。聞きましてよ。環君が御欠席って本当ですの?」
「ええ残念ながら。極度の下痢だそうですよ。どうせ腹でも出して寝ていたんでしょう」
はい、環極度の下痢設定〜。竜胆は心の中で呟いた。
「心配ね…それに残念ですわ。パリではショッピングに付き合って頂きたかったのに…」
「鏡夜君と牡丹君の御予定は?よろしければ私達と…」
「いえ…おつあ――…」
「ごめんなさい、お嬢様方。レディの荷物持ちするのは男の役目だけど、俺も鏡夜も自由行動には個人的に予定があるんだよ。本当にごめん。このお詫びはいつか必ずするからさ」
「おい」
鏡夜が何をしようかお見通しだっての。竜胆は小さく呟いた。今頃環は何をしているだろうか。一人悲しく何を思うのだろうか。そして残してきた血の繋がりこそ遠いが正しく自分の弟達。そしてその間に悩むであろうハルヒちゃん。自分はどうしてこんな所に居るんだか。こういう時こそ何もしてあげられなくても近くに居てあげたかった。
「おい、竜胆」
「…何」
「…お前なぁ。何をさっきからイライラしてるんだ?」
「イライラするでしょうが。何でこんな時に研修旅行?研修と言う名の只の皆で旅行じゃん!しかも環が行けないフランスだなんて。何度も来てるわ!今更何をしろと!?それにこちとら秘密隠さなきゃいけないってのに四六時中誰かに囲まれてるし。こっち来る前の光と馨の様子も気になって仕方ないし――…あぁ、もう!」
竜胆は両手の握りこぶしを自分の腿に当てた。
「はい、深呼吸」
苛立ちを逃がす様に竜胆は大きく息を吸い込んだ。だがそれだけで気持ちは晴れたりなんかしない。
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