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「鏡夜。行ってらっしゃい。貴方にかかってるみたい」

「…知ってる」

「言っておくけれど、鏡夜にかかってるのよ。鳳じゃない」

竜胆はそう言うと控えに出る鏡夜の背中を押した。

「オイ。赤組は須王をアンカーに代えてくるみたいだぞ」

「九瀬よりは足は遅いだろうけど…どっちにしろこの点差だ。ヘタしたら負けるんじゃ…」

仲間の白組そんな後ろ向きの声を聞いた。

「鏡夜先輩。鏡夜先輩。今からでもアンカー辞退しちゃえば?幸い理事長も見てる事だしさ、最初からラストは殿に花持たせるつもりだった事にすれば充分メリットになるんじゃない?」

馨は観覧席から下にいる鏡夜に笑いながら言う、その言葉に鏡夜は眉間に皺を寄せた。

「…あの理事長にそんなごまかしが通じるか。それにこれはメリットの問題じゃない。この勝負は初めからただの意地なんだよ…!」

いつからその背中はとても頼もしかった。出会った頃はまだか細くて、とても着いていきたいとは思えなかったその背中。私の好きな人。胸の内で熱いものを抱えている彼。自分のやりたい事に迷い無く進むその背中は誰よりも格好良い。

「僕わかっちゃった。多分殿は鏡夜先輩にメリット抜きで勝負させたいんだ…!」

「馨大正解」

「やっぱりりんちゃんは知ってたんだねぇ」

「だって、環とも鏡夜ともずっと一緒だったんですもん。環が優しいって事分かるし、鏡夜の実は熱い男って言うのも知ってる。だって私そんな二人の男に惚れたんだから」

どちらが勝っても私は喜ぶのだろう。あの日心を許した二人の男達の勝負を笑顔で応援出来た私。そして着いてきて良かったと再確認出来るだろう。最後のレースの前になるとホスト部は自然と固まり二人の行く末を見ていた。その中で聞こえてくるレース前の二人の声。

「最初からこっちは対決なんか望んでないんだ。いつもは上手くいってるかもしれないが、おまえの押し付けがましいおせっかいで迷惑する人間がいる事も忘れないでほしいね」

「迷惑?ああ、おまえの超腹黒作戦に知らずに巻き込まれてる白組の皆さんの事かにゃ?」

「あ、俺が勝ったら鏡夜ん家のコタツ年間パスポート発行してもらうから。忘れるなよ?」

「…俺が勝ったら来週の部の接客おまえだけフンドシ一丁。しかも物腰はあくまで洋風に」

「俺が勝ったら来月の研修旅行で飛行機ずっと俺が窓側な!」

「俺が勝ったらお前だけエコノミーしかもずっと体育座り」

「なんだよ!俺の罰ゲームの方がなんかひどいじゃん!“しかも”とか余計なもんついてるし!」

「お前にかけられた数々の迷惑を考えればこのぐらい当然なんだよこのバカ!」

「なんだよ!結構楽しんでるくせに!気取っちゃって!へそまがり!」

「黙れ!いつもいつもお前の勝手な行動を俺が裏でどれだけフォローしてやってると思ってんだ!恥を知れ!このバカ!」

竜胆はそんな二人を見ながら微笑む。正反対かと思いきや実は似た者同士の二人なのだ。

「「うっわー子供みたいな喧嘩してるよ。あの鏡夜先輩が」」

「知らなかった?鏡夜って実は子供みたいなのよ。末っ子だし」

「へぇ…鏡夜先輩ってああいう顔もするんですね」

内に秘めた熱さが出ちゃうとあんな顔になるんだね。確かにあんな顔は今まで見た事がない。竜胆は鏡夜を見て先ほどから口角が上がってしまう。好きな人があんなに本気でいる姿というのはとても胸が熱くなるのだ。


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