107 (1 / 2)
すっかり敗北モードになってしまった赤組に対して白組は余裕を持っていた。
《只今から赤組の応援合戦ですが舞台をグラウンド中央より赤組スタンド席に急遽変更してお届けするとの事です!》
「シェイクスピアがどう応援に繋がるのかな」
「マクベスかしら?それともロミオとジュリエット?」
「そもそも体育祭でシェイクスピアは失敗でしょ」
赤組は戦意を失っていると誰が見ても分かる事。この時点で白組の勝利は目前だと誰もが思った。だが、それを覆すのが須王環なのだったのだ。圧倒的な差をつければこちらとしても面白さも感じない。
《火の詩神ミューズよ。想像の輝かしい力をどうか与えたまえ。役者と王族貴族にこの小さな舞台を戦場に…そしてあのアジンコートの空を振るわせたおびただしい兜を表現しうる力を》
聞こえてきたのは光の声。
「これ“ヘンリー5世”だ!」
「アジンコートといえば15世紀の百年戦争の決戦地だねえ」
大勢の敵を前に士気を見失ったイングランド兵達にヘンリー王が演説する場面。赤組からはどうせ負けて終わるという声がする。そうこれは応援合戦と言うよりは赤組を盛り上げる為。
「そーそーどーせ負けてるんだからさっさと終わらせて帰…」
《今のは誰の望みか。今の望みの声は貴方か。この戦いに加わる勇気がない者は立ち去るといい。止めはしない―…私は死ぬ事を恐れるような臆病者と共に戦う事を望みはしないのだ》
応援合戦に無駄なまでの力の入れ様。だが、それは人々を奮い立たせる演説。
《しかしながら諸君!もしも今日を戦い抜いて無事に帰途につく者は今日の事が話題になる度胸を張り誇らしく思うだろう。人間は忘れやすい。だが他の事は全て忘れてもその日の名誉と幸福な記憶は繰り返し新たに思い出されるだろう。敗北を恐れこの場を去るものは後に我が身を呪うだろう。何故ならたとえ小数でも我々は幸せな一団だから―…今日という日に共に戦い汗を流した者は皆兄弟となるのだから!》
環の言葉に影響を受ける様に赤組に活気が戻り始める。
《ならば諸君!進軍を!兄弟達に神の御加護を!》
それだけではない。更なるやる気と団結力。環はそうだ。以前からどう考えても合わないタイプ同士だったとしても繋げてしまう。それは環の魅力の一つ。鏡夜が不敵に微笑む中、竜胆は彼の横で小首を傾げた。
「持っていかれちゃったよ。さて、白組大将はどう出るんですかね?これからきっと苦戦するだろうな」
「…お前はどちらの味方なんだ?」
「味方?ん〜どちらかと言えば友人の味方?」
「どちらにも当てはまってないな、それは」
[
prev] [
next]
[
bkm] [
TOP]