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竜胆が自称夏バテだといつもの誘いを断った次の日。竜胆に連絡してみたが竜胆が携帯に出る事はなかった。私用のついでだと柊家に行けばいるはずなのですが、姿が見つからなくて…。息を切らした使用人が彼女はプールに居ると言い、鏡夜は眉間に皺を寄せながらプールまでを歩いた。

「鏡夜!いらっしゃい」

そう言う竜胆は今だプールの中。客が来るにも関わらず水着のまま上がる気配すらない。

「で、急にどうしたの?」

「お前、これから軽井沢行くか?」

鏡夜は近くにあったチェアに座り込んだ。その目の前に竜胆は来るがやはり上がる気配は無く、プールサイドに手をかけているだけ。

「軽井沢って美鈴さんの所?」

「あぁ。何でもハルヒも土日手伝う事にしたらしい」

「あら、ハルヒちゃんも?今日から?…皆行くんでしょう?」

だろうな、その返事を聞いてから竜胆は微笑んだ。

「昼は済ませたか?」

「え?」

「たまには普通の物でも食べに行こう。そのまま軽井沢な」

確かに最近のお昼は外で食べる物で珍しい庶民のもの。確かにそれらは美味しいのだが、普通の物も食べたくなる。竜胆は食べてないけど…小さく呟いてから目を逸らした。そして鏡夜が竜胆に向かって手を伸ばすもプールから上がろうとはしないのだ。

「何だ?」

「…あのさ、鏡夜。私水着よ?」

「今更だろう。初めて見る物でもないし」

だけれど…竜胆の語尾はどんどん小さくなっていく。一体何だと言うんだ?見せたくない理由でも?それこそ本当に今更だろうが。竜胆はあ、と小さく呟いた後鏡夜の手を取り、そのまま引っ張ったのだ。当然落ちるのは油断していた鏡夜の方だ。鏡夜は服を着たままプールへ落下した。勢いよくプールから上がってきた鏡夜は眼鏡をしていない。

「あはは、眼鏡無いよ?」

「…あははじゃない。どうしてくれるんだ。携帯財布眼鏡」

鏡夜は携帯と財布をポケットから出してプールサイドへ投げ捨てた。

「携帯は弁償するけれど、後はなんとかするわよっ!眼鏡探そうっと」

竜胆は逃げる様にプールに潜った。そして眼鏡を拾ったのだろう、竜胆はすぐに泳いでいなくなる。確かに泳ぎには自信があると言っていたがそれはとても優雅なものだと思った。ぼやけて見えない鏡夜の視界は彼女の足を繋げて見せた。

――あぁ、人魚だ。

きっと彼女は陸の上では生き辛いんだろうな。鏡夜はがらにもなくそう思った。

「鏡夜!ほら、眼鏡!」

ひらひらと振る手には鏡夜の眼鏡。どうしてもそれを奪いに行きたいとは思わなかった。鏡夜は小さく溜め息を吐いてからプールサイドへと上がった。

「鏡夜?どうしたの?怒った?」

見たくないのだ。今は。視界が悪い状態が丁度良い。可愛すぎる笑顔も行動も。そして人魚の様だと思った事も全部ぼやけていた方が都合が良い。綺麗なプールは太陽の光を反射させる。空を見せるプールは海の様に。お前の居場所はどこだ?海?空?それとも遥か彼方?

「鏡夜。そこのタオル取って。後眼鏡はまだしちゃだめよ」

「…さっきから一体何なんだ、お前は」

「何だと思う?そんなに乙女の柔肌が見たいの?青少年」

「バカか」




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