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『ところオートリくん!君の家に“コタツ”はあるのかな?』

そしてそれは俺がまだ小さな枠にとらわれていた頃の話。


鳳鏡夜の中学生日記A


柊牡丹との付き合いは当然無い。父から命令が来ない限りはただのクラスメイト。そして柊牡丹は俺が話しかけようとしても逃げるのだ。それを何回か繰り返したら話す気力なんてわいてこないし、興味もない。もう充分な収穫はあった。その後進級し、三年の春。時計が動き出した。父からの命令で須王家の妾の子。そして一夜にして須王財閥の後継者となった男が桜蘭に転入してくるから“いい友人”になっておけ、そんな事。俺は父の命令通り須王環に近付いた。奴のわがままには散々付き合ってやったし、無茶な要求にも飲んでやった。そしてふと気付く。一ヶ月前程に言われたセリフ。“君そのままの生活してたらいつか壊れる”その通りだと思った。三男としての義務は兄を立て前に出すぎない事。周囲の同情や皮肉に上手く対応し、けなげで努力家の三男坊を演じる。それをゲームだと演じていく内に楽しいと思いこまなければならなくなった。そして須王環が勝手に自宅へやって来た時の事だ。

「しかし広いなーキョーヤの家は。フランスの家とどっちが広いかな」

「明らかに須王邸の方が大きいだろう?」

「いや、俺は本邸には入った事がないから。第二邸はもっと狭いよ」

どういう事か訊こうとしたがこちらの話を聞かない須王環は勝手に写真を見ていた。

「成程。お兄さんが二人とお姉さんが一人いるのか――それで?将来はキョーヤが跡を継ぐのか?」

喧嘩を売っているのかと思った。

「…継ぐはずがないだろう。見たろ?兄が二人いる。僕は兄の下で働く事になる」

「あれ?そうか、それは意外。君はもっと貪欲な人間かと思ってた。だって現状に全然満足してないって目だろ?ソレ。意外と諦めいいんだな」

その台詞が気に障った。どうしてそんな事を言われなきゃならない?

「…諦めるとか諦めないとかの問題じゃない。そう決まってるんだ。君のように当たり前な顔で家を継ぐ人間にはわからないのかな」

出てしまった本音だった。

「俺は須王を継ぐとは決まってないぞ?お祖母様に嫌われてる」

跡継ぎとして認められていない。だが、それでも奴は笑っていた。どうして笑っていられる?どうしてそうやって――どうして?

「…ふざ…けるな…っ!なら何故もっと認めてもらう努力をしない!何故簡単に諦めたような事が言えるんだ!」

お前は俺と違うはずなのに。努力させすればいくらでも上にいけるのに。その恵まれた立場は俺と違う。俺がどう頑張ってもそこへは行けない――…自信だってそれに伴う実力だってあると言うのに三男というだけで超える事が許されない壁。心の中で他人を見下して、ずっとごまかしてきた。それをどうして見つけてしまう――…。


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