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ハルヒは疑問に思った。光邦がどうして空手部を辞めてまでホスト部に入ったのか。それを知るには少し過去を遡る事になる。ホスト部が出来る前の話。光邦は“空手部の鬼主将”と呼ばれていた。埴之塚家の長男として次期当主と期待されるが、光邦は誰よりも小柄だった。不安がる周囲の目を黙らせるのは実力だと光邦は弱さや甘えを完全に捨て、より一掃己に厳しくつとめよ。それが父の言葉。大好きな甘い物や可愛い物を断ち、努力するもその努力は周りにはバレバレ。が、気を使った周りは鬼主将と光邦を呼びだしたのだ。

「わ、このマカロン美味しい!」

「ホントだねぇ〜!」

ホスト部を作る為にはまず部員集め、それはもちろん計画を立てた環の役目だった。

『…本気、見せてよ』

あの頃の自分はまだ入部を決めていなかった。環の本気が見たかった。彼がどこまで本気なのか知りたかっただけ。そして環は順調に集めて行ったのだ。仲間達を。家族達を。竜胆は昔を思い出しながら紅茶とマカロンに手を伸ばす。

『コンニチハ、埴之塚先輩。突然ですが僕と一緒に部を立ち上げてみませんか?』

『須王くん…だよね。中等部の。部活ってなんの…』

『フフフ☆よくぞ聞いてくれました埴之塚先輩!あなたは御自分のその容姿をもっと活かしたいとは思いませんか!?美しいインテリアにかわいらしい小物達!あま〜いお茶に美味しいケーキ!色とりどりの花に囲まれて僕らと楽しく過ごしてはみませんか――!?』

『お…俺はケーキなど好きではない!かわいいものに興味なんて全然…』

欲を断ち自分を律する先に何が待ち受けているのだろうか。辛かった、と思い出す未来ではないのか。その先で手に入れたものを誇れるのだろうか。

『俺は武道には詳しくないのですが強さとは一体何なのですか?自分の心に嘘をつかなくては得られないものですか?失礼ですが本当の自分を隠し見栄を張る事は俺には逃げに思えます。自分を認め受け入れる事も大切な事とはいえませんか?好きなものを好きだと言える勇気や楽しもうとする前向きな力。自分で正直である事もまた強さと考えてはいけないのですか?』

弱い自分だっていいじゃない。それを隠すよりも受け入れて開き直ってしまった方が私は自分らしくて好きだ。他人の目を気にしたりはしない。

「ハニー先輩、今度ここのお店行ってみませんか?」

「行く行くゥ〜☆」

兼部で良いと言った環に対して光邦はけじめをつける為と空手部を辞めたのだ。でもその行為は靖睦にとって裏切りの様に思えなくもない。それでも光邦は毎日稽古を欠かさない。

「「竜胆ねぇ」」

「どうしたの、光馨」

竜胆はソファーから移動させられてハルヒの前まで連れてこられる。

「今マカロン食べてたのに」

「僕らは、チカのあそこまでの言動には何か」

「ウラがあるんじゃないかって思うんだよね」

「「と、言うわけで、題して埴之塚ブラザーズ仲直り大作戦☆」」

それには竜胆は小さく微笑んだ。確かに良い作戦だとは思う。それから環と鏡夜も引き入れようと光と馨は涙を浮かべる。

「唯一無二の兄弟同士がいがみ合うなんて僕らには耐えられないよ、なあ馨?」

「そうだね光。兄弟愛がいかに素晴らしいかって事僕らがチカに教えてあげなくちゃ…!」

それにまんまと騙される環。だが、竜胆は嘘も方便と持ってきた紅茶に口をつけた。確かに兄弟がいがみ合うなんて良くない。家族は仲良くしたい。でも、いくら血が繋がっていてもそう出来ない家族が居る事を知っている。

「そういうものなのか…俺は一人っ子だから…竜胆もそう思うのか!?」

「え?…まぁそうだね。自分と牡丹は離れてしまっているから…一緒にいれるはずの兄弟が離れ離れは辛いよ、きっと」

それを聞いて環は目を潤ませた。

「また環を煽る言い方を…」

鏡夜が竜胆に近寄り言うと竜胆は笑みを浮かべる。

「自分は大人だからね」

竜胆の物言いに鏡夜は眉をしかめた。




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