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「「竜胆ねぇ!!」」

「はうわっ!?」

変な声を出した竜胆ねぇは持っていたプリントを盛大に落とした。そしてプリントを拾いながら僕らを睨みつけるように見上げた。そして小さな溜め息と言葉を吐く。光と馨の悪戯がこの程度で済むのなら可愛いものだと。


柊竜胆の観察日記D


「で、竜胆ねぇ。今日もどうしてプリント持ってんの?この前もだったじゃん」

そうなの?僕は首を傾げた。どうやら僕の知らない内に光と竜胆ねぇは会っていたらしい。

「日直の男子が休みだから代わりに持って来ただけだよ」

出た。竜胆ねぇのレディーファースト。自分だって生粋のお嬢様のくせにやる事はその辺の紳士よりも紳士的だった。

「そんなの殿に任せりゃいいのに」

「そうダヨ、同じクラスなんだから」

殿なんか喜んでやりそうだと言うのに。

「わざわざ男手借りるもんでもないでしょ」

そういう竜胆ねぇは至って通常営業だ。この前デパートで見た時の寂しげな表情はどこにも見えない。むしろふっきれた様な表情だ。じゃあ、この前の事は何だったのだろう。

「「竜胆ねぇ」」

「はいはい?」

ようやくプリントを全部拾い上げた竜胆ねぇは立ち上がってから首を傾げた。

「…この前のデパートの事なんだけど…」

「竜胆ねぇ。明らかにおかしかったじゃん。何かあったワケ?」

こういう時の光って本当に凄いと思う。僕よりも遠慮無く物事はっきり言えちゃう所。いくら双子でも僕には到底出来ない技だ。そう言われた竜胆ねぇは少し考えた後儚げに微笑んだ。

「ごめん、それは聞かないで。言えないの」

「「…何で?」」

昔は僕らに何でも言ってくれ――…言ってくれていた?いや、いないよ。だって竜胆ねぇは僕らに何も言わずに海外に行ってしまったのだから。何も言わずに居なくなった僕らのお姉ちゃん。あの頃僕ら二人はしばらく泣いて塞ぎこんでいたんだから。多分竜胆ねぇがずっと近くに居たのなら僕らだってこんなひねくれたりはしなかっただろうネ。

「言えないから言えない。大人の事情。ごめんね、心配かけてしまって」

そうやって竜胆ねぇはわざわざプリントを置いてから同時に僕らの頭を撫でた。竜胆ねぇの良い所は僕らを同様に扱う所。流石に光と一緒に居たら“光、馨”と呼ぶけれど、僕と話す時は“馨、光”と呼んでくれる。撫でる時も抱きしめる時もいつも同時に。そう言えば昔はよく竜胆ねぇに抱きしめられていた事を思い出した。


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