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スーツに着替えて中央棟広間へ移動するとそこは生徒だけではなく彼等の両親も皆きらびやかな格好をしていた。

「竜胆、お前は着替えなかったんだな」

スーツ…ではなく女装の事か。竜胆は小さく微笑んだまま環がいる方向を見ていた。

「…環の話してたらさ、何か自分も夢に向かって真っ直ぐ進みたくなってきたんだよね」

羨ましいくらい真っ直ぐで、ポジティブで。それは生まれ持ったもの?持っている事に気付いていないだけ?見つけていないだけ?

「お前の女装は夢を叶える為の一つだろう?」

「…それはあの両親が出した無茶苦茶な条件っ。いいの、趣味ってだけでさ。今日は環の為に部に貢献してあげようと思ってさ。それとも何?自分の女装姿見たかった?」

「いや。そうじゃないが…最近女装していないだろう?」

「そもそも女装じゃないけどね」

何だろうな、いつからか忘れた。自分をあまり女だと思いこんではいけないと思った。勿論いつかのハルヒの様に無茶をする気はない。そう言う意味ではなく、もっと根底にある何か。

「…俺が原因か?」

鏡夜の言葉に竜胆は顔をあげた。どうして鏡夜が原因?その理由を考えるとすぐに見つかった。そうだ、あの日から自分は女装をしていない。

「…鏡夜って意外に心配性ね。違うよ、多分」

「多分?」

「…私は牡丹じゃなきゃ。ここに居るまでは」

「…お前は竜胆だよ」

「知って――」

「竜胆」

竜胆の言葉を遮って鏡夜は竜胆の名前を呼んだ。そんなに何回も言われなくても知っている事だと言うのに。

「…ねぇ、知ってる?桜蘭に来て初めて“竜胆”と呼んでくれたのは鏡夜なの」

「…だろうな」

「あの時嬉しくて私は泣きそうだったわ。それと同時に思った。私はこの人の事好きになるってね」

「……は?」

竜胆は手をひらひらと振った後ホスト部常連のお客様へと声をかけた。そして踊るも辺りが一瞬無音になった。ハルヒが自分の取った料理をフォークに刺し、環にあげようとした、それだけだが、良い所の親達はそれを見過ごしはしない。

「いやあね、はしたない…どちらのお嬢さん?」

ハルヒが中心になりかけたその時、環はハルヒの手に伸ばし料理を口に入れた。

「ありがとう、すごく美味しい」

「先輩…人が見て…」

「んー?何で悪い事してないのに気にしなくちゃならないんだ?俺はねハルヒ。“須王”環である以前に俺っていう一人の人間なんだよ。その事に俺は誇りを持ってる」

その場が無音になった様な気がした。そう、環は環である事に誇りを持っている。どうしてだろう、そんな環と一緒に居れば自分もいつかそう思えるのではないか、竜胆はそう思っていた。私も竜胆として胸を張って言える日が来る。それは皆と居れば来るだろう。柊牡丹ではなく、柊竜胆だと胸を張って言える日。誰もが自分の事を竜胆だと呼ぶ日。

「そうだハルヒ。今度俺のお母様の写真を見せてやろう。それは綺麗な人なのだよ。今は少し離れているがきっと元気でいてくれてると信じてるんだ」

「へえ…それは…ぜひ見てみたいです」

そんなハルヒと環をホスト部のメンバーは出迎えた。そこに居るのは笑顔のみんな。




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