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「鏡夜、遅いよ」

「あぁ、竜胆。先に居たのか」

竜胆は第三音楽室の扉に寄りかかりながら鏡夜の登場に片手をあげた。二人の間に何も不自然な所は無かった。何も変わらず、何の意識もせず、ただあのストーカーと化した女子が付き纏う事が無くなって、ホモ疑惑も流れず万々歳。お互い普通に、普通にを意識した結果だった。その普通が互いを傷つけている事に気付かずに。――全く意識されていない。お互いの行動故の結末だった。

「でさ、この手紙。見たらとんでもない内容なのだけど」

竜胆の手には開封済みの封筒と便箋。便箋には脅迫文。しかも筆跡が出ないようにわざわざ記事を切り取った本格的な物だった。

「さあな。分かるのはサロン争奪戦を辞退する事を目的としているだけ。脅しだな」

「それは分かってる。脅しで済んでれば良いけれど、これで終わると思ってる?たった一度きりの脅迫文で」

「残念。それ一度じゃない」

鏡夜の手には数々の脅迫文。それを得意気に見せるってどういう神経をしているのよ。竜胆は深い溜め息を吐いた。が、サロン争奪戦を辞退しろと言う事は桜蘭の関係者で、しかも学生の可能性が高い。サロン争奪戦に参加している部の中から絞られる。生徒がホスト部に敵を作ってでもこんな事をする、というならば余程のバカだ。皆Aクラスのハルヒを除けば桜蘭でも群を抜く家柄。そんな彼等に喧嘩をしかけるというのは考えにくい。そうするとそこまで気にする事もない。

「「富豪――☆」」

双子は手を合わせて喜んだ。

「お貴族〜☆」

「おいしいお菓子同盟は貴族ですね!」

ルールの知らなかった竜胆はお菓子同盟として光邦と共同戦線。

「…平民」

崇は至ってクールに呟いた。

「…貧民…」

重い空気を背負った環。

「「「だーいひーんみ〜ん!」」」

ハルヒの前にトランプがばさばさと落ちた。

「ダメじゃん、ハルヒ。せっかく庶民的ルールで遊んでやってんのに」

「自ら自分の地位アピールしてどーするんのさ」

「だってトランプとか興味なくてろくにやった事ないし…」

竜胆自身もそうだった。ポーカーとかブラックジャックならば出来るが、大富豪なんてゲームは初めて知ったのだ。

「ハルちゃんもしかして…」

「ハルヒ!これ俺のトランプだけど!今みんな見てないから!早くしまいな!」

「別にそれくらい買えます。バカにすんな」

ハルヒの“すんな”というセリフに一同は驚き残念そうに涙を零した。

「こらこら下民共。騒がしいぞ?それで?今日から二週間、俺のドレイはハルヒという事でいいのかな?」

そう爽やかな微笑を浮かべながら言うのは大富豪である鏡夜だった。罰ゲームで大貧民は大富豪の言う事をなんでもきく、と言うものだったのだ。

「二週間も!?聞いてませんよ、そんな!大体思いっきり学院祭の準備期間とかぶるじゃないですか」

「そうだぞ鏡夜!ハルヒを苛めるなら俺を倒してからにしろ!」

「貧民うるさい。じゃあ環も奴隷」

大富豪様はなんとも無茶な命令をするものだ。こんな大富豪の居る国ならば出来る事なら住みたくはない。


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