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それから猫澤の特訓は続いていた。彼もなんとかめげずに特訓を続けようやく自分の顔に懐中電灯を照らす事に成功したのだ。それは第一歩だったが、霧美がそれを見て声にならない叫びをあげて部室を飛び出して行ってしまった。

「霧…美…」

自分の努力は何だったのか、猫澤はその場に倒れこんだ。

「…もう…いいんです……特訓を続けたところで霧美が私を受け入れる保証もありませんし…霧美もこんな兄より、須王君のようなお兄さんの方が…」

猫澤の弱音を払うような環の声は部室に響き渡った。

「あの子が本当に会いたいのはあんただろう!妹が大事ならもっと死ぬ気で根性見せろよ!」

「殿――妹ちゃん中庭まで出ちゃってるよ」

「一緒になんかいるな…猫?」

カーテンを開きそこから外を覗けばそこには霧美の姿。そしてその向かいには一匹の猫。

「サスガ猫好き一家――迷い猫にもすぐなつかれ…」

それを聞いて猫澤は慌てて窓際までやってきた。日差しの事等全く気にしてはいなかった。

「いえ…確かに猫澤家は代々猫を象ったものを崇拝していますが、それはあくまで“物”の形としてであって生物自体の好悪とは別物なのです…霧美は…霧美は生きた猫が一番怖いんです…!」

そう言った後猫澤は部室を飛び出した。ローブを身に纏う事なく、ただ一人の妹だけの為に。その後を部員達は慌てて追った。

「霧美!霧美!」

「おにいちゃま…!」

猫澤はようやくローブ無しでも日の下に出れるようになった。

「ほ〜ら、霧美。怖くない怖くない、悪い猫はこのベルゼネフが呪い殺して…」

と言いながら倒れこんでしまった。が、それでも兄弟が近付く為の一歩だった事には違いないだろう。それから環は霧美に兄認識される事はなくなり、むしろ全然似ていないと言われてショックを受けていたが、霧美にとっても猫澤にとっても良い事だと環は少し寂しそうに微笑んでいた。

「兄弟って素敵ね」

「竜胆先輩って牡丹さん以外に兄弟いるんですか?」

「えぇ。いるわよ。もう一人兄がね」

「三人兄弟なんですね。男兄弟がいるとやっぱり騒がしかったりしましたか?」

ハルヒの言葉に竜胆はん〜と眉間に皺を寄せて考えた。

「兄は歳が離れているから騒ぐなんて事はなかったし…牡丹も大人しいから…私が一番騒がしかったかしら!」

竜胆は笑いながら答えた。

「兄はすぐに寮に入っていたし、よく考えると兄弟と一緒に居た時よりも光と馨と一緒に居た方が長かったかもしれないわ」

「あぁ、はとこでしたね」

「毎日毎日イタズラ三昧でよく怒られてたものよ、光と馨がね!」

何だ、この腹黒い人は。ハルヒは若干後退った。

「でもね〜私も海外行っちゃったからなぁ」

「そう言えば牡丹さんはずっと桜蘭って言ってましたよね。で、中学二年の時に竜胆先輩がこちらに来た……何か竜胆先輩ってややこしいですね」

一言で随分酷い事を言うものだと竜胆は苦笑いした。まぁ、自分でもそう思っているのだから仕方ない。ただ今日は少し兄弟について考える事になるだろう。竜胆は空を見上げて思う。牡丹は元気?たまには電話してみようかな。




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