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「光、ちょうど良かった。悪いんだけどこれ持ってくれる?」

そんな声が聞こえて僕は振り返った。そこに居たのは両手にプリントの山と授業で使う地図を脇に挟んでいる竜胆ねぇの姿。少し離れた所に居た僕は歩いた廊下を戻って重そうなプリントの山を持ち上げた。

「地図で良いんだけど」

それくらいのレディーファーストくらいは僕だって出来るんだから。そう言うと竜胆ねぇは随分と紳士になったねと小さく笑った。


柊竜胆の観察日記A


竜胆ねぇは不思議な存在だった。だって丸っきり一緒の後ろ姿でも僕と馨の区別がつくと言うんだから。分け目でもなく言動でもなく気付いた竜胆ねぇに対して少しのお礼くらいしたっていいはず。普段なら逃げてそうな頼み事も受け取ってあげるんだ。

「ごめんね、流石にちょっと重くてさ」

「日直一人なワケないじゃん」

「いや、相手は女の子だからさ。重い物持たせるわけにいかないでしょ」

そういう竜胆ねぇがレディーファーストじゃないか。自分だって女のくせに。男装をしているけれど、袖から見える手首なんかその辺の女子より細いと思う。そんなか細い腕で紳士だと言うのだから事情を知っている者からすれば涙ものだ。

「ねぇ、光。学校は楽しい?」

「は?急に何?」

「だって馨と一緒の時に聞いたら同じ答えが返ってくるかもしれないし。自分としては二人の意見をバラバラに聞きたいの」

たまに馨と別行動してみればこういう巡り合わせもあるんだという事を知った。

「最近は…割と楽しくなくはない」


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