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「すいません、この校舎の最上階に音楽室ってありましたよね?」

「えぇ、あるわよ。第三音楽室が。そこの階段を上がって北側廊下のつきあたりよ」

「ありがとうございました」

小さく頭を下げて先を行く人物の腕を竜胆は掴んだ。掴まれた人物は何か?と首を傾げる。

「…失礼。それじゃあ、お気をつけて」

竜胆はパッと手を放してから自分の教室へと向かった。いけない、早く携帯を取って戻らないと鏡夜に怒られてしまう。鏡夜の無言の圧程怖いものはない。いや、ハニー先輩の寝起きも恐ろしい。竜胆はどちらも思い出してぞっとした。

「牡丹の君!今日はホスト部に出ませんの?」

「出るわよ〜今は忘れ物を取りに来たのよ」

あら、案外そそっかしいのね、女の子達は小さく笑う。竜胆はそれを見て可愛らしいと思った。同い年の女がこのような事をしているなんて想像もつかないのだろう。本来であれば“女装”という言葉もいらずにこの格好が出来るはずなのに。

「牡丹の君のご指名を取るのが最近難しいんですのよ」

「あら、それは申し訳ないわね。今日の三時半頃に来てみて。その時間の指名は入っていないはずだから」

それじゃあね、竜胆は手をひらひらとさせながら小走りで自分の教室へと向かった。女装をするようになって気付いたのは、女装時に素の女の部分だけを見せているだけでは駄目だという事だった。時に男らしい仕草を見せないと本当に女だと疑われてしまう事に気づいた。案外大変なのだ。そして竜胆がホスト部活動場所である第三音楽室へ戻って来ると何やらとんでもない事が起こっていた。

「折角気をつけてと言ったのに」

「「ちょっと竜胆ねぇ遅ーい」」

「これでも急いだ方なんだけどね。それでそのルネの花瓶はどうしたの?」

もう粉々じゃない。そしてそのすぐ前には先程出会った人物が青い顔をしていた。

「特待生の藤岡君が割ってしまい、すぐに返せるはずもなく…こうして彼はめでたくホスト部の犬になったのだ――!」

犬ねぇ、それは反対。分からない子を近くに置くのはよくないと思う。…小さく呟きながら竜胆はハルヒに近寄った。


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