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『牡丹がいてくれてよかった……私は牡丹がいてくれてうれしい』

違うよ。それは僕の方なんだよ。僕は目を伏せて彼女の手を握る事しか出来なかった。


柊牡丹の幼稚園日記@


僕と竜胆は双子。男女の双子で二卵性。だけれど、幼い頃から顔立ちはそっくりで、あるかないかでよく判断されていたとか。でも、二年、三年と過ぎると僕達の違いは大きく出てくる。まず性格の違い。僕は人見知りで無愛想、喋りもあまり得意ではない。竜胆はと言うと少しお転婆でおしゃれが大好きでよく喋り、よく笑顔を浮かべる可愛い女の子になった。そして最大の違いは竜胆が体が弱かったと言う事だった。竜胆は調子の良い時ははとこである常陸院光馨の家へよく通っていた。何でもすごく楽しいらしい。確かに家に居ると周りは自分の体調を心配する大人達ばかり。(それでも常陸院でも大人の目があったのは確か)上の兄は寮。そして無愛想な僕。そうなると一緒に騒げる弟達と遊ぶ方が楽しいらしい。気が紛れて良いのかもしれない。それでもやはり体調が悪い時がある。

「…竜胆?だいじょうぶ…?」

「だいじょうぶだよ、元気だもの」

顔色が悪くてベッドに寝たきりでも竜胆は決して弱音を吐いたりはしなかった。元気じゃないと周りが心配する事を知っていたからだった。まともに幼等部にも通えない身体。大人になれないかもしれないんだって。だからこそ、両親は竜胆の自由にと常陸院へ行く事を許していたんだ。

「…おひめさま、一体なにがかなしいの?」

だから僕はそんな竜胆の為に少しでも笑って欲しかった。

「…まぁ、うさぎさん。いいのよ、あなたは外であそんできて。せっかく元気な身体をもっているのだから」

僕は初めて優しさが悲しくなることを知ったんだ。僕は涙を堪えながらうさぎになった。それから従者にも、王子にも、姫の友人にもなった。

「…今日はね、魔王がおひめさまをさらいに来たんだよ。いつまでも寝ていていいのかな?」

「…ふふ、魔王さまはこんな私を見つけてくれたのね、うれしいわ」

創作の話も作ってみた。僕は竜胆が喜ぶ様に必死で演じていた。そうするとね、竜胆は喜ぶんだよ。竜胆には友達がいないから僕が友達になってあげるんだ。僕はね、竜胆が望むのなら何にでもなってあげるんだ。

「牡丹がいてくれてよかった……私は牡丹がいてくれてうれしい」

違うよ。それは僕の方なんだよ。僕は目を伏せて彼女の手を握る事しか出来なかった。愛想がないからとか、可愛げが全く無いとか、牡丹はこんな事で将来大丈夫なのか?って親戚達が心配しているのを聞いた。竜胆の方がいいのに、竜胆は身体が弱いからきっと駄目だろう…大人達はそう言っていた。

「…違うよ…」

僕は竜胆が居てくれて良かったんだよ。居てくれて嬉しいんだよ。こんな僕でも竜胆は必要としてくれるから。僕は竜胆がいなきゃ多分ずっと泣いていたよ。

「…ねぇ、王子様…泣いちゃだめよ。笑顔でおひめさまを迎えに来て?」

竜胆は僕を求めてくれる。だからこそ、僕は僕のままでいられる。




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