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「荷物一つで安宿に泊まって、その土地のいろんな人達と飲み明かして、そうやって沢山の土地の“色”を知りたいのよ」
――あ…。“カルメン”は男を翻弄し破壊を導く悪女的な見方もあるけど、彼女自身が望んだものはあくまでも魂の“自由”だ。誰も媚びず、強くたくましく。
「だから今は結婚なんてしている暇ないの」
その姿はいっそ純粋でひたむきな程――…。
「…その話を父親にした事は?」
鏡夜は珍しく口を開いた。そんな素敵な夢があるのなら本気で話せば良い。分かってもらえるまで話せば良いのに。それでも分かってもらえなかったら家を出る覚悟を見せれば良い。そう子供の様な反抗ばかりしていないで。私はそう思う。竜胆はそれを心の中で呟きながらお茶に手を伸ばした。
「は…?そりゃ…何度も話したわよ。けどいっつも大喧嘩になっちゃって、まともな話し合いになんかならないわね。うちはたった一代でここまで会社を伸ばしたけど、石油業は将来的に先細りで父も必死なの。鳳との縁談だって提携の条件として父から申し出た話よ。うちは家柄とかの後ろ盾がないからどうにか上流層と繋がりたいんだと思うわ。そういう父のなりふり構わなさを見て悲しくなったり、役に立てない親不孝さを感じちゃったりもしてね――…」
結局の所、この人はまだ悩んでいる。親と自分の夢の間で。決められないからこそ、子供の様な反抗心だけに見えてしまうのだ。奈々子は語り終えるとそのままテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。
「…ほんとはお家の事考えていないわけじゃないんだねぇ〜」
「…ああ…だから逃げのツメが甘い」
「「ええっ、そうかな!?」」
「あの程度のガード、俺なら余裕だ」
「「…そりゃモリ先輩は超人だもん…」」
崇が相手ならどんな相手でも逃げる事は不可能だろうな。
「超人じゃなくても、本気で家などどうでもいいと思っていたら、いくらでも方法はあった。それでも今ここにいるのは――…」
理由があるから。環はそれに気付き微笑むのだ。
「…よし…やるか」
環は突然呟いた。
「「殿?やるって…」」
「無論決まっとる!とらわれの姫救出大作戦。またの名を“ドン・キホーテ大作戦”だ…!」
そしてホテルに行けば、竜胆はハルヒの腕を掴んだ。
「ハルヒちゃん、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よ?」
その言葉に環は泣きながら引きとめようとしたが竜胆だけではなく、光馨もそれに賛同した。
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