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「「竜胆ねぇ。お疲れー」」

「お疲れ、光馨。今日はお客様が多くて疲れた」

「竜胆。疲れた、と言う割にはしっかりと新商品の予約を取ってきたようだが?」

「鏡夜。何か不満?同じ様に指名も増えてきているのだから何も問題は無いはず」

ウィッグを脱ぎ捨てて竜胆は纏めていた髪をぐしゃりと手櫛で崩した。つけまつげを取って、後はメイク落としシートをふんだんに使ってコットンで化粧水と乳液を塗りこむ。男達を追い出してから男子生徒用の制服に身を通す。

「りんちゃんは相変わらず早着替えが上手だね〜」

早着替えに上手も下手もあるのだろうか、だが、こういう質問は今に始まった事ではないと竜胆は小さく微笑んだ。

「ありがとうございます、ハニー先輩」

「なぁなぁ、竜胆!良い事を思いついたのだ!次回皆で女装する、という催しはどうだろう!」

「嫌。そんな事したら自分の立場が無くなる。いい?イケメンが揃うホスト部に唯一女子の格好をした人間…女装趣味男子がいる!そうそして女の子の様に可愛い男の娘!皆女装していたら牡丹の君が紛れるだけじゃん、環」

しゅんと落ち込む同級生の頭を竜胆はそっと撫でた。それに、と竜胆は顔を上げる。

「モリ先輩は女装したら流石に無理がある」

「「確かにー!」」

イケメンと女装が似合う、じゃまた別の話。その綺麗に筋肉のついた体を女性に見せるのは無理があり過ぎる。竜胆は崇の顔を見上げた。こんなに背が高いのだしね。

「あーあー何かつまんなーい」

「何か楽しい事ないかなー」

光と馨の言葉に竜胆は微笑んだ。もう口癖となっているそれを何度聞いた事か。

「春は出会いの季節。何か楽しい事あるかもねぇ」

いつもの部活、部活終わり。特に予定も無ければ表玄関まで皆揃って帰るわずかな帰り道。すぐに見えるのは自分達を迎える車と運転手。玄関を抜ければ皆バラバラの方向へ進んでいく。いつかこれと同じ様にバラバラな道に進む時が来るだろう。きっと皆自分の夢に向かうはず。その時私は笑顔で皆の背を押してあげよう。だから間違っても皆振り返らないで。竜胆は儚げに微笑んだ。

「ま、私が先に進んでいるかもしれない、か」

「「ん?」」

「何でもないわ、光、馨。それじゃあ、皆。また明日!」

私ね、ここに来れた事本当に感謝しているの。だからまだ終わらないで、まだこのままでいたいのよ。時間よ、そんなに早く進まないで。竜胆はぼんやりと空を見上げた。そこに浮かぶのは何だろう。鳥が視界を横切る。出来るならば空行く鳥を遮る雨が降りませんように。




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