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「なんだこの緊迫した空気は…本当にさっきまでと同じ女性か?」

「あの女の人命が惜しくないんでしょうか…」

「3mの高さの窓から飛び降りるのはともかく、きょーちゃんにあんな風に挑める女の人はりんちゃんくらいだよねぇ〜」

「えぇ。私にどんな印象持ってるんですか?」

流石にあそこまで言ったりは出来ないわよ。しかも初対面で……あ、言った。私結構ひどい事を言っていたかもしれないと竜胆はこっそり頭を抱えた。

「…普通は3mの高さからも飛び降りたりしない…」

「「カルメンなのは見た目だけかと思ってたけど、まさかあの人…」」

鏡夜の前にいる女性は環が言った通りまるで別人のような笑みを浮かべていた。

「お見合い中に逃げた前科が過去3回。ていうか親の決めた縁談なんてまっぴらなのよね。だからお願いするわ。私の事見逃してくれない?」

そうして鏡夜に近付いた。――リアルカルメン!!遠くから見ている限り、まるでカルメンそのものだ。カルメンの話はまず傷害罪で捕らえられたカルメンが警官を色仕掛けでせまり逃亡を手伝わせる所から始まるのだ。だが、鏡夜がそんな色仕掛けに簡単に引っかかるはずがない。

「…なんて事!?うっ!?もがもがっ!」

「「竜胆ねぇ!落ち着いて!」」

竜胆は思わず立ち上がり声を張りそうになったが、光と馨にそれを止められた。

「…お断りしますよ、父に叱られますので」

「父父って親の犬なのがそんなに誇らしいの?親のいいなりな事に疑問を持たないなんてね、おめでたくてうらやましいわ」

嫌味。

「ああ!親の決めたレールを歩きたくないという典型的パターンからの反抗でしたか。中学生くらいで陥りがちな思考を成人まで守り抜くとは素晴らしい精神的若さですね」

そして応酬。嫌味と応酬のオンパレードだ。それの繰り返しで見ているこっちまでがハラハラしてしまう。

「…聞いているわよ?相当優秀なんですってね。ひょっとして従順なフリをしてお兄さん達を出し抜こうとか思っているのかしら」

奈々子のその言葉は今までのハラハラとはまた別の物を皆に与えた。

「たいした自信だけど視野の狭さに気付いてないのね。それって結局“家”に縛られてるだけなの。狭い世界でしか生きる事を許されない自分を正当化してるだけなのよ、すっごく哀れよね」

――悪女!!性悪女!まごうことなきカルメン!!

「わかったら見逃してくれるかしら、カタブツ眼鏡君?」

そうして鏡夜は笑みを浮かべて一言、

「死んでもお断りです、この性悪女」

――腹黒対決inスペイン――…!

部員達はそれに恐怖する。竜胆はそれをぼんやりと見ていた。焦るでも無く、怒るでも無く、なんと言うかまた別の感情。それを言葉にするならきっと悲しい。




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