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「シマさん!」

そこに居たのは第二邸の使用人達。荷物を運び出していた。環の姿はそこに無い。

「鏡夜坊ちゃま、竜胆お嬢様」

「環はもう本邸に?この荷物は…」

「環様の身の回りのお品です。環様はもう第二邸にはお戻りにはなりませんので」

環の作った家族は少しづつヒビが広がっていく。

「皆さんもここから…?」

「はい。他の使用人達も明日には新しい勤め先へ移る予定です」

私達を受け入れてくれた場所が。

「…シマさんはどちらへ…?」

「…私はもう年ですから田舎にでも移り住みます」

環の物が纏められ、そして使用人達も自分の荷物を纏める為に屋内に入って行った。明日にはなくなる。他人の私を竜胆お嬢様と受け入れてくれた場所が。

「それは…須王会長の命令で…?」

「…勿論大奥様の御意思にございますが、私共は元より覚悟してございました。いずれこうした日が来た際には大奥様の言いつけに従うようにと、譲様から言い渡されておりましたので」

「理事長が…」

ふざけないでよ。何でそのままを受け入れているの。竜胆は視線を下ろし地面を見つめた。

「…環坊ちゃまの更なる御成長を見守れない事が非常に心残りでありますが、鏡夜坊ちゃま、竜胆お嬢様もどうぞお元気で――…」

そうして頭を下げた使用人達を見て竜胆は涙を堪えた。環にとってこの人達も同じ家に住む家族だと言うのに。

「…竜胆、帰るぞ」

「…どうして環は携帯に出ないのかしら…」

「忘れたか、電源を切ったか、充電がないか、落としたか、没収されたか、だろうな」

「…最後は一番きついわね」

環と連絡が取れない以上どうしようもない。環の状況をきちんと知らない限りこちらも無意味に動けない。

「…明日になったら連絡が来るかもしれない」

「でも、来ないかもしれないわっ!」

「…竜胆。泣くな」

「…ねぇ、私嫌な予感がするのよっ……私って普段よく勘が当たるじゃない?この時ばかりは…外れて欲しいっ…」

どうして?どうして守ろうと誓った物は手から離れて行こうとするの。ふと自分の思考を過ったのはホスト部はこのまま解散。全てが悪い方向へ進んでいく。そんな予感。

「…大丈夫だ」

鏡夜は竜胆の手を引いた。竜胆はその手をしっかりと握り返した。




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