143 (3 / 3)
「…でも、お互いにとって良い選択なのよね」
皆は竜胆に視線を移したがそれ以上竜胆が喋る気配はない。代わりに鏡夜が代弁していく。
「埴之塚と銛之塚は個々に優れた企業だが、提携事業も多く切り離せない間柄だ。モリ先輩も将来的には銛之塚のトップに立つと共にハニー先輩の良きパートナーを目指すつもりだろう」
そうするならば別々の勉強をしておいた方が互いの為。特に企業に入る上で法律は必要分野。だからこその選択なのだ。将来の事を見据えているからこその判断。
「悟や靖睦にはまだわからないかもしれないが…環。おまえは理解していると思ってたがな」
環は未だに道場の隅で膝を抱えていた。
「……環せんぱ…」
「…わかってるよ。そんなのわかってる。第一モリ先輩が決めたと言うなら俺達が立ち入っていい事じゃないのもな」
そして環は本社でミーティング見学があると帰って行った。環もそう。自分の先を見据えた判断。そんな時竜胆の携帯が鳴った。道場から出て竜胆は電話を取った。
「え?本当に!?柚葉ちゃん!いいの!?」
竜胆は声をあげた。電話の相手は光馨の母でもある有名デザイナーの常陸院柚葉。
《えぇ。でも、今すぐ来れるなら、よ?》
「勿論!今すぐ行くわ!」
「「竜胆ねぇ?どっか行くの?」」
通話を切った竜胆はすぐに駆け出しそうにしてから立ち止まる。
「えぇ!柚葉ちゃんの所へ!」
「「母さんの?」」
「そう!以前から撮影の見学させてもらっていたのだけれど、今モデルに欠員が出たからやってみないかって」
そう話す竜胆の目はキラキラと輝いていた。
「「モデル!?」」
「え?どういう事ですか?」
「自社の広告塔になるんじゃなかったのか?」
「えぇ。最初はそのつもりで色んなコツとは学ぼうと思って見学をしていたのだけれど、よく考えたら今柊の広告塔になったら絶対に親の七光りだって言われるじゃない?だったら実績を積んで、一からオーディションに参加してもぎとってやるわよ!」
「「でもさ、牡丹にぃは?」」
は、忘れてたと竜胆は再び携帯を手にとってどこかにかけ始める。
「もしもし?牡丹さ、これから日本に飛んだって設定にしておいて。何って私柚葉ちゃんの所でモデルやるから。夢の為なのよ、いいでしょう?だから牡丹は部屋から出ないよね!詳しい事は後で連絡するから。はぁ?協力するものでしょう?私が竜胆だってバラしても良いのよ?」
まくし立てるように早口の竜胆に皆は呆然としながらその光景を見ていた。そしてよし!と声を張ると竜胆は皆に手を振って走り出した。
「…竜胆先輩も進路とか考えてるんですね」
終
[
prev] [
next]
[
bkm] [
TOP]