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「国道を三ノ輪の方に…信号待ちでつかまえられないかと追ったけど無理だったわ。それに…一瞬だったけど一人は見覚えあったわ。あれは…須王ホテルか劇場に出入りしている業者じゃなかったかしら」

その言葉を聞いて環は一目散に走り出す。

「待ちなさい!警察に任せて!」

「高坂さん。須王の顧問弁護士のあなたが何故ここに?」

「初詣に来たんですよ、鳳さん」

確かに鳳の事を知っていてもおかしくはない。

「お一人で?」

「ええ」

「まさか偶然皆さんもいらしているとは思いませんでしたけど」

「…そうですか」

――偶然ね。本当にそうだろうか?何もそう思ったのは鏡夜だけじゃない。環を追いかけて光、そして光邦と崇は走り出していた。残ったメンバーは鳳家の車へ乗り込む。

「ちょっとこの車もっとスピード出ないの!?そこの悪そうな黒メガネ!悪そうなスタイルして速度守っちゃうとかどーゆー神経よ!」

「メイちゃん無茶だって。今光の居場所確認しながらちゃんと追ってるから」

「無茶!?楽しー初詣からイキナリ誘拐とかいう展開になるとか無茶よ!言っとくけど蘭花パパの稼ぎじゃ身代金なんかムリなんだからね!大体なんで環くんとこの関係者にハルヒが…」

「メイちゃん、動揺するのは分かるけれど…少し静かにしてもらえるかしら?」

メイが声を張りたくなる気持ちは分かっている。だからこそ辛いのだ。

「メイちゃんごめんね…。ハルヒは絶対に助けるから」

「別に馨君に謝られても…」

「…ハルヒが誘拐されたと聞いて全員が一瞬自分の家絡みだと考えた。身代金目的にしろ私怨にしろ俺達の家ほど適したターゲットはないからな。…もっとも怨恨のセンなら鳳が断トツな為に俺はこうしてガードがついてるわけだが…」

そう、この誘拐は何も須王のせいでも環のせいだとも言い切れない。誰もが考えておかなければならなかった事だった。

「ハルヒと行動を共にするにあたってこうした事態に巻き込む危険性を考えていなかったわけじゃないが、甘すぎたのは確かだ。だからこれは俺達全員のミスなんだよ」

竜胆は珍しく塞ぎこんだ様に頭を抱えた。悔しくてどうにかなってしまいそうだ。きつく手を握り締めた。

「…鏡夜。何か分かった…?」

助手席の鏡夜はパソコンを弄り、情報を探る。竜胆はモニターを覗き込んだ。

「約10km先のビルに先月で須王から仕事を切られたクリーニング業者があるな。ハルヒの位置情報と合わせても間違いなさそうだ」

「クリーニング屋?」

「ああ…先代社長の頃から付き合いのある老舗らしい。規模は小さいが昔ながらの確かな手作業で一時期は劇場からホテルその他須王経営下の仕事のほとんどを任されていたようだ。しかし現会長に実権が移ってからはもっと合理的なシステムを持つ大型工場に仕事を回され始め、時代の波にあらがえないままついに昨年末で最後の仕事も切られたというわけだ」

それを鏡夜は電話で先を行く環へ伝えた。車内に流れるのは沈黙。そして鳳家の車がクリーニング屋に到着した頃ハルヒは無事に救出されていた。誘拐したのは店の人で、ひどい事をされた、なんて事はなかったらしい。


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