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心地の良いピアノの音は彼そっくり。畑に行くという彼女と彼女の両親、そしてアントワネットに似た犬と一緒に竜胆は歩いた。泥だらけになるも気にせず大きな籠。籠の中には採れたての野菜。
「あー!やっと目ぇ覚ましたのね!」
鏡夜が目を覚まし環の写真を見つけた時そんな声がかかり振り返った。そこに居たのは女性と竜胆。二人共泥まみれ。
「え…あの…」
鏡夜は珍しく動揺していた。
「いくらのどかな街とはいえあんな道端で寝ていたら危ないわよ?しかも彼女を一人残すなんて紳士じゃないわ。ここまで運ぶのに一苦労したのよ」
「そ…それはすみません、でも、あの…」
「見て!うちの畑でとれたジャガイモよ☆おなかがすいたでしょう?何か用意するわね」
そういう彼女はとても元気そうだった。病弱ではなかったのか、そう思うくらいだ。
「あの…どうして日本語…」
「あら!そうよね、日本といえば大事な事を聞くの忘れてた。あなたの家に“コタツ”はあるのかしら?」
それを聞いて鏡夜だけではなく竜胆も驚いた。環の日本文化に対する憧れや性格は父親譲りだと思っていたが母親もそうだったのだ。美味しい食事を終えた後日本常識を教えられた彼女はがっかりした様に呟いた。
「でもひとつ勉強になったし知れてよかったわよね!あっ、スープのお代わりいかが?」
「いえ、ご馳走様でした。お茶のお代わりだけ頂けますか?」
「ええ、喜んで」
この女性は環の母親で間違いないはずなのだが、とても病弱には思えない。一体どこで食い違っている?
「…元気に暮らしてるみたいですね」
「え?」
「あ、イエ。その細いお体で畑仕事と伺ったものですから」
あくまで鏡夜と竜胆は何も知らない事にしなければならない。自分達が大きく動けば環にどんな影響があるか分からないからだ。だからこそ、お互い自己紹介すらしていない。
「それはここに越してきたおかげね。確かに元々あまり丈夫ではなかったの」
少し前まではパリ近くのお屋敷に住んでいたけれど、父の会社がうまくいかなくなってしまった。そして彼女は
「一番大切なものをこの体のせいで私は手放してしまった」
竜胆はその言葉に衝撃を受けたのだ。私の体のせいで一番大切なものを手放す……それは私にも言える事?
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