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「――確かに。2年と少し前までグランテーヌ家にお仕えしておりました」

「2年と少し…?というと…?」

鏡夜も綺麗なフランス語で話し返す。

「ええ。ルネ…環坊ちゃまが日本へ発たれて間もなくアンヌ=ソフィー様の御希望でお屋敷を手放される事になり、大半の使用人もその時里に帰りました」

竜胆の想像とは逆だったのだろうか。環との思い出が辛すぎて逆に離れてしまったのかもしれない。グランテーヌ家がその後どこに行ったのかは使用人達にも伏せられていたらしい。

「環様の日本での御友人方でしたわね。坊ちゃまはお元気?」

「ええ。それはもう有り余る程に」

「確かに皆振り回されてるわ」

竜胆は小さく笑った。その女性もその光景は目に浮かぶという。だけれど、昔は違っていたらしい。母親の体調が悪い日はふさぎこんで誰が話しかけても笑顔を見せる事はなかったと。それでも環は母親の言葉で笑顔を取り戻したらしい。自分のしたい事がいっぱいある、そして何より環の笑顔を毎日見たいと。笑顔でいれば周りに幸せをわけるからと。

「…環の笑顔にはそんな秘密があったのね。確かに私達環に影響される様に笑ってるわね。ねぇ、鏡夜」

「…何故俺にふる」

「素直じゃないわね、本当に」

使用人の女性から話を聞けて良かった。それだけでも少しは救われる。帰ろうとした時女性は呟いた。

「本当に環様とお親しいのがわかりました。先ほどは知らないと申しましたが…少しだけなら聞いている事をお伝えできるわ。パリからそう遠くない…大きな森が近くにある村で、春はマロニエと藤の花が美しく、秋には黄金色の麦畑が広がり、かつて自然を愛する画家たちを多く育てた土地だと――…」

はっきりとした地名こそ言わなかったが、特定出来たその場所。鏡夜と竜胆は目を合わせた。時間は刻一刻と迫ってくる。それでもようやく掴んだ情報は無駄にしない。たった一人の友人の為に出来る限りの事はしてやりたい。




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