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それからタヌキ保護プロジェクトは活動しているのだが、タヌキさんを保護出来る事が出来ずに難攻していた。手分けしてタヌキを探すのにも力が入る。何故なら週明けには二年の研修旅行が待っているからだ。
「何か雨降りそうね」
「降ったら部室集合」
知ってるわよ。雨に濡れてまでタヌキさんを探したりはしないわ、小さく呟いてから竜胆は茂みを掻き分けるもそこにタヌキの姿はない。
「そもそも桜蘭は広すぎる!無駄なまでの敷地面積ね。これじゃあ追い詰める事も出来やしない」
「…無駄なまでの敷地面積を誇る豪邸をお持ちの柊家が何を言う?」
「私の家は無駄じゃないわよ!ちゃんと私の散歩に有効活用されてますぅ」
竜胆は立ち上がり空を見上げた。そこは灰色で今すぐにでも泣き出しそうな空。まるで誰かの心を表した様な――…。
「…環はどうするのかしら」
「さあな」
「…環も寂しいんでしょうね。いつかフランスに帰って母親を見つけたいと願うのかしら…それを考えると少し寂しい」
環の為だと分かっていても大事な友人が遠い地へ行ってしまうのは悲しい事だった。そんな寂しげな表情を浮かべる竜胆に向かって鏡夜は箱を差し出す。
「これは?」
「空」
ぶっきら棒な言葉と、プレゼント用に包装された箱。竜胆は不思議に思いながら鏡夜からそれを受け取り、封を解いた。中に入っていたのはネックレスだった。そう、空色の。淡く優しい色をした。
「セレスタイトね」
大胆にカットされた石には金具が取り付けられて男女使えそうなデザインになっていた。竜胆はそれを箱から出さずにじっと見た。
「流石」
「ねぇ、鏡夜。宝石言葉って知ってる?」
「名前だけは」
「セレスタイトの宝石言葉は休息・恋愛・満足感・喜び・先見の明・心の開放・社交性・冒険心・精神的自由とか。セレスタイトはね、社交性を高めたり、心を開く助けとなったり、ポジティブな心の持ち方をサポートしてくれると考えられているんだって…」
貴方はそれをどういう意味で私にくれたのかしら。ただ本当に空色だったから?それとも何か別の意味が隠されているのかしら。竜胆は目を閉じた。
「…なら、私は鏡夜にトパーズでも送ろうかしら」
「誕生石か?」
「そうよ。でもブルートパーズがいいかな。11月の言葉でね、十一月の霜のもとに生まれた者はトパーズを大事にしなければならない。それは真の友と友愛のしるし。そしてトパーズを身につけた持ち主は真実の愛を得る」
誠実・友情・潔白・幸福の宝石言葉。今の私はそこに愛を入れてあげる事は出来ない。でもいつか鏡夜にトパーズ以外の宝石を贈りたくなった時、そこにはきっと沢山の愛が込められているだろう。
「鏡夜。私の気持ちよ。大事にしてよね」
「…考えとく。まぁ、まだ貰ってないからなんとも言えないがな」
はいはい、鏡夜はそういう人よね。竜胆は小さく笑いながらネックレスの箱を閉めた。
「これ頂いても良いのよね?」
「あぁ」
「今更返せって言われても返さないよ?」
「倍で返せとは言うがな」
なんて奴!竜胆は思わず鏡夜の腕を掴んだ。その時鏡夜の肩に一粒の雫。それに気付いた時雨は本格的に降ってきた。
「降ってきたな、行くぞ」
鏡夜はブレザーを脱いで竜胆の頭へ被せた。そしてそのまま竜胆の手を引いて駆け出す。何でこんなに優しくて、私の心を揺さぶるのが上手なんだが。それってかなり卑怯だと思うのだけれど。分からなくなっちゃうじゃない。
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