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「あなたがこの部の王子的存在だなんて信じられませんわ!王子キャラたるものそう易々と愛をふりまいたりしないもの!ちょっぴり憂いを含んだ寂しげな笑顔が乙女のハートを震わすものなのに!」
一体何の話でこの女性は力説しているんだろうか。それも分からない。分かるのは桜蘭の生徒だという事くらいだ。
「どうしてそんなにバカみたいなの!?まるで頭の軽いナルシストじゃない!無能!凡人!最っっっ低!」
その一言一言が環に突き刺さる。
「君は…」
「鏡夜様…!」
女性は鏡夜を見た途端環への非難はやめ、その胸に飛び込んだ。
「お会いしたかった…私だけの王子様…!」
語尾にハートをつけて話す彼女はどうやら鏡夜の婚約者らしい。それに衝撃を受ける面々。部活を一時中断し、制服に戻れば二つの重い影を背負う二人の人物。
「「いいなずけぇ?鏡夜先輩の!?」」
「はい、宝積寺れんげと申します。明日付けで1−Aに転入する事になりました」
それを背に膝を抱える二人。
「ホラ、怒ってるよ。お母さんがお父さんに隠し事してたから」
「ホラ、お姉ちゃんもデリケートな年頃だから悩んでるよ、アレ」
そう言われているのは環と竜胆。二人は壁の隅に壁に向かって膝を抱えていたのだ。
「どうでもいいがその夫婦設定は定着させていくつもりか?」
「まさにひと目惚れでございました…誰にも見向きされない裏庭の植物を一人慈しむ姿に…傷ついた仔猫に優しく差し伸べたその手に…」
「「…なんかまるでイメージできないんですが…」」
自分達の知っている鏡夜はそんな事はしているタイプとは到底思えない。
「人違いでは…」
「「待てハルヒ!少しは鏡夜先輩に気をつかえ!!そして無言で密かに笑わないで、そこの人!」」
光馨の言う通り竜胆は壁に向かい座り込んだまま笑いを堪えるように肩を震わせ床をバシバシと叩いていたのだ。だが、そんな言葉をれんげは真っ向から否定した。
「いいえッ!この目に狂いはありませんわ!誰にでも優しくそれでいて決して見返りを求めたりしない!孤独を愛しだけど本当は寂しがりや!そんな今をときめく恋愛シュミレーションゲーム“うき☆ドキ☆メモリアル”の一条雅くん!にそっくりなあなた!」
鏡夜に指をさすれんげ。流石にこの状況に竜胆も環も落ち込んではいられない。オタクの存在を初めて間近にし驚くばかりだ。
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