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「鏡夜、鏡夜!」

先ほどから上機嫌で俺の後ろを着いて来るのは柊竜胆で間違いない。が、正しく言えば傍から見れば柊牡丹。正真正銘の男。だが、たまに軽く後ろを振り返りその顔を見ると見間違いではない。紛れも無く柊牡丹は女なのだ――…。


柊竜胆の観察日記F


ジャージから着替える為に送れて更衣室に入る。そこは無人。当然、今は体育祭終了の祝賀会。赤白関係無くお疲れ様とグラスを合わせ飲み物を飲んでいる頃だろう。そして竜胆は平気で男子更衣室に入ってくる。当然男としてやっている今男子更衣室に入る事には全くの抵抗は無いらしい。が、俺としてはもう少し気を遣うべきだとは思う。

「鏡夜。貴方って実は運動神経が良いのね!羨ましいわ。私は悪い方ではないけれど、体力が着いていかないもの」

「で?俺は着替えたいんだが?」

ん?どうぞ?そういう様に手の平をこちらに見せている竜胆はやっぱりバカだ。親のアホみたいな条件飲んで男装までしてくるなんてよっぽどのアホ。それが夢の為なのだと聞けば立派な決意だと思ったが、ここまで来るとやっぱりアホだとしか思えない。

「…お前なぁ。俺は男だぞ?」

「知ってますが?」

俺はここまでじゃじゃ馬なお嬢様は見た事がない。周りに居るのは上品なご令嬢ばかり。男の着替えなんて見たら顔を赤らめ悲鳴をあげて一目散に逃げていくのが一般的。言葉使いもどこぞの娘さんよりは悪くないが、やはりお嬢様方に比べれば悪い部類。

「え?恥ずかしいの?今更?」

恥じらいというものを欠片も持っていない。環のアホみたいな事に便乗すれば、無茶もやらかす。何故自分はこんな女が好きなのか自分でも理解不能だ。溜め息の一つでも吐きたくなる。

「鏡夜。溜め息吐いたら幸せ逃げるよ?」

誰のせいで吐いた溜め息だと思ってる。勘が鋭く周りに目が行くと思えば自分の事に関してはなかなか無頓着。それが竜胆の良い所であり悪い所でもある。自分を大事にはしないのだ。大抵の人間が考えるのはまず自分の事だろう。だが竜胆の中では違うらしい。本人は自分の為だと言っていたが、それを俺は違うと思う。竜胆の中の一位はいつまで経っても牡丹なのだ。自分よりも。その理由は知らない。

「そう言えば勝負に勝ったらキスだっけ?いいんだけどさ、鏡夜、環に勝った後自分は負けたって顔してたけど、どう?」

いいんだよ。俺の事は。そこまで理解されたいとは思っていない。なぁ、お前は気付いているのか?気付いていて隠すのか?俺はお前に自分を大事にして欲しいだけなんだよ。それにどういう意味があるのかって?そりゃあるさ。

「ん〜事実ね。じゃあ、頬だけね」

俺の肩に手を伸ばし竜胆は軽く背伸びして頬にキスをした。それに今更驚いたりはしない。


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