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「竜胆。お前そろそろ競技の準備をした方がよくないか?」

そうだったと竜胆は立ち上がって、馨の頭に手をやってから歩いて行った。そして競技前の準備中。辺りはホスト部の二人が戦うという事で盛り上がっている。

「環さま――!」

「牡丹の君――!」

二人は歓声に笑顔を見せて手を振った。

「あら、環。今回は敵だけれど、負けるつもりはないよ?」

「ふ、竜胆か。お前も俺の技に恐れをなすが良い!」

「環の技?環の技は女性を喜ばせるだけでしょうが!どこを恐れろと?それよりも自分の器用さに恐れをなすのは環、お前だ!」

「うぬ…俺は負けんぞ!」

「自分だって負けないからね!」

《競技の前半ラストを前に同じクラスで親友でもある須王選手と柊選手が何やら言い争っている様子――》

「お父さん。たまにはお母さんを本気で怒らせてみてよ」

「…娘の言葉には逆らえないな」

環と竜胆は微笑みあって拳をコツンと合わせた。そこにここ一番の歓声が響き渡る中競技がスタートした。

《前半ラストの競技は“飴細工競争”各自当たったお題に添って飴細工を完成させ、ゴールを目指すというものですが。ご覧下さい、須王選手のなめらかな手つき。真剣な表情。伝統芸術の名にふさわしい身のこなし》

「環ー!そんな急いでどうするアホー」

「誰がアホだ!これは勝負なのだ!例え相手がお前でも俺は手を抜かない!」

《そして作品の出来栄えは…あああこりゃヒドイ!審査員が全員バツをつけました。赤組原点!対する白組柊選手はなんとも器用だ――!ご覧下さい!素人の作品とは到底思えぬそれはまさに鍛錬を積んだ職人技の様!先ほどの須王選手とはうってかわって全員マルを出した――!これで赤組63点、白組183点、120点差で圧倒的に白組優勢です!》

「常日頃からネイルやビジュー小物を作っている柊牡丹をなめない事だね。それが例え環でも手を抜いたりはしないよ?」

その言葉に環は項垂れ、横を爽やかな笑顔で観客に手を振る竜胆が通り過ぎて行った。
――全力でやって。悔しいけれど鏡夜を本気にさせられるのは多分環だけだから。小さく呟いた竜胆の言葉は環に届いたのか、それは分からない。




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