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《さて、ご覧下さい。玉入れというのは地上4mの籠にどれだけお手玉を投げ入れる事が出来るかという大変素朴かつ地道な庶民らしいゲームでありますが、今回使用します籠は人間国宝別府右衛門先生の竹細工。お手玉には最高級友禅“葵山”の手絞り染めを使用しております》
無駄なまでの豪華さは一人の心を煽ってしまった。
「ゴラア!ハルヒあんたその布がどんだけ高級かわかってんのかドアホ――!」
と響き渡る声。それはメイのものだった。
「それは投げて遊んでいいモンじゃないんだよ!ほらさっさと拾って!汚さないでよ!そんであとでチョーダイ!そこの赤いのも手伝う!竜胆君も拾え――!」
「………」
竜胆はその言葉をスルーした。竜胆って誰?となっているからだ。残念、メイちゃん。今の私を呼び止めたいのなら柊か牡丹と呼ぶべきだった。ハルヒに玉を集めだした赤組を他所に竜胆はしらっとした表情のまま籠に玉を入れていった。当然数えるまでもなく白組の勝利だ。
《続きましては男子ハードル走!この競技には両チーム精鋭の俊足選手が立ち並びます!第一レースの注目選手はサッカー部主将御獄虎太朗!》
赤組の御嶽は俊足の持ち主なのだろうが、ここにも鏡夜の戦略が込められている。御嶽取引先の七倉の子を隣に配置。期待されていた御嶽もそれには勝てなかった。それは何も御嶽だけではない。赤組の選手はスタート直前で動揺する姿。
「…ねぇ、鏡夜。勝ってるのは良いかもしれないけれど、なんともつまらない勝負ねぇ」
「…何が言いたい?」
「あ、理事長だ。結構父兄来てるんだねー」
馨はギャラリーに目をやる。そこには理事長の姿があった。暇は父兄は体育祭を見に来ているらしい。
「うちの両親は仕事だけど、鏡夜先輩のとこは?」
「来るわけないだろう。うちの親が率先して来るような行事なら別の策を練ってる」
「別って?」
「俺の作戦と人望により白組が活躍した事をもっと明確にアピールして最後は環に花でも持たせてやるさ」
竜胆が馨に視線を移すとやはり考え込んでいる様子だった。竜胆は馨の隣に並び肩を預けた。
「…環が何を考えてるか分かった?でも、それを言っちゃダメ」
「え?」
「だって鏡夜照れ屋でしょう?」
ふふふと笑う竜胆に馨は驚いた。どうしてこの人は人の考えてる事がすぐに分かってしまうんだろう。自分は全く分からないと言うのに。
「…体調大丈夫?」
「あら、私は馨に心配してもらう為に言ったんじゃない。そこは間違えないで。馨にだから教えてあげたんだから」
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