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「そういえば鏡夜。どう?浴衣、似合う?」

竜胆はその場でくるりと一度回ってみせた。片方に寄せた長い巻き髪ウイッグがひらりと動く。

「……まぁ、いいんじゃないか?」

「素直に良いと褒めてよね、本当に。素直じゃない。素直な鏡夜も少し怖いケド」

本当にこの人の優しさは少し分かり辛い。でもそういうのが私は好きなんだろうな。少しばかりひねくれている彼が。でもね、そういう部分も好きだけれど私は貴方の本気を見てみたいと思うんだけれど。そろそろ見せてくれても良いんじゃない?

「わふっ…ちょっと、いきなり何するんですか」

竜胆の視界はいきなり真っ暗になった。そうした相手は分かっている。鏡夜がお面を竜胆の顔に被せたのだ。

「…男避け」

小さな声が聞こえて竜胆は固まってしまった。そして何のお面か分からない面をそのまま押さえた。見えなくて丁度良い。今私は絶対赤い顔をしているから。見え辛い視界のまま鏡夜の浴衣の袖を掴んだ。

「前が見えないの。エスコートしてくれる?」

「仰せのままに。お嬢様」

移動すれば気付く。メイと環が居ない事を。それでも誰も心配はしなかった。結局の所、メイの心を理解出来るのは環だけだと思っているから。そして環からの合図を待った。作戦開始の報告が来ると美鈴は男スタイルで気合を入れた。

「いつまでも金魚すくい独占してんじゃねーよ。子供が遊べねーだろーが」

そして作戦が始まり、チンピラ役に選ばれた笠野田達がメイと環に近づく。

「あ゛――?何か用?あたし今スゲー機嫌わりーんだけど。金払って金魚すくいしちゃいけないワケ?」

皆の予想に反し、メイは怯えるどころか笠野田に反論したのだ。

「コラー!うちの娘に何して…」

絡まれたメイを庇う、それが今回の作戦だったのだが、メイは全くあの笠野田に怯む事はない。むしろ反論された笠野田の方がビクビクしているではないか。

「てめーこそ何してんだよ。ブリ男」

「メイちゃんが不良に絡まれてるって聞いたから…」

「別に一人でなんとかできるって。つーかペンションは?いつものブリブリの服はどーしたわけ?」

「たまには男らしいお父さんがいいかなって…」

「ハアア!?」

上手く行くどころか、二人の関係が悪化していく様に思えた。ハラハラしながらその場面を見ていた。

「今更何言ってんの!?そんな簡単にやめれんなら最初から離婚なんかしなきゃいーじゃん!あたしがどんだけ寂しい思いしたと思ってんの!?」

「メイちゃんごめ…」

「どーせあたしとお母さん捨ててまで選んだ道ならねぇ!きっちりイヤっつー程極めてみせろっつーの!そしたらブリブリだろーが何だろーが認めてやるわよ…!」

メイはちゃんと分かっていた。心の中で応援していた。ただ言葉が足りなかっただけ。

「帰る。あんたも来て。“協力”と“抜けがけ”についてキッチリ叩き込んでやるから」

メイはハルヒの手を掴んで歩き出し、ふと立ち止まり言うのだ。

「…ああそれから。アンタのさくらんぼのジャム。あれも今度送っといて。忘れないでよね。あれも大好きなんだから」

メイが素直になれるのはまだ少し時間がかかるかもしれない。それでも、どれだけ時間をかけようとこの二人なら大丈夫だと言う確信はあった。そして竜胆は祭囃子の中一人で歩いていた。気付いたら周りに誰もいなかったのだ。連絡手段がない。そして帰る手段も無い事に気が付いた。置いていかれる事は無いと信じたいが、皆は夢中になると周りが見えない事も知っている。うーん。と小首を傾げて蹲り竜胆は考えた。


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