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「ところでさぁ…柊君だっけ?男なの?女なの?いや、女だよね?」
メイの言葉に竜胆はん〜〜とわざとらしく首を傾げてから微笑んだ。
「両生類?」
「バッカじゃん!あんた折角可愛い顔してんのにさ!つーか、何昨日は男子の制服着てたくせに今日は女物って…!しかもセンス良いし…!ちょー可愛いんですけどー!これさ、ブランドもんじゃん!流石桜蘭の生徒だし…!そのナチュラルメイクどこで勉強したワケ?それも専属スタイリストとかにやってもらってるワケ?」
メイの勢いに竜胆は一歩身を引いた。そんな一気に色んな事を言われても全てを理解する前に流れて行ってしまうから。
「…マジ可愛いわ」
「ねぇ、メイちゃん。柊君じゃなくて竜胆って呼んでよ。その方が親近感沸くわ」
「いいけどさ…その――…」
メイの言葉は小さくなって行き、視線は環へと向いている。あぁ、そういう事ね。今日この場にハルヒが居ないのも頷けるわ。竜胆は小さく笑った。
「環?」
「えぇっ!?」
あら、意外にもピュアじゃないの。
「大丈夫よ〜彼等は自分を女として扱う事を知らないから。何かあったら気軽に相談出来る年上って事で一緒にいさせてよ?」
何で分かったの!?そう言おうとするメイの目の前に既に竜胆はいなく、離れた所で光馨と同じ様に駅を見上げていた。…なんなんだ、あの人…!
「ねぇ、鏡夜。あれ見て。それで人がごみの様だって言って」
「…はぁ?」
電車の窓の外から見える風景は新鮮な物だった。普段彼等は一般的な民家や学校を見る事も少ない。人だかりがあればいつか映画で見た悪役の台詞を是非鏡夜に言ってもらいたいと思ったのだけれど。竜胆はつまらなそうに視線を逸らした。その先では環や光馨達が電車内にも関わらず楽しそうにしているではないか。当然知り合いには思われたくないから避難しているのだが。
「…東京って空が狭いよね」
「まぁな。何だ、もう帰りたくなったのか?」
冗談で言った鏡夜。だが竜胆は目を見開いた後に小さく両方の口角を上げた。帰りたい、と言うよりは逃げたいのだ。ずっと仕舞いこんでいた事。皆と居るのは楽しいけれど、自分が傷つく前に逃げたい。自分を守りたくて仕方ないんだろうな、私は。
「当たり。鏡夜には何でもバレちゃうな」
それを聞いた瞬間鏡夜は竜胆の手首を掴んだ。それに竜胆は驚いた。
「…ふざけるなよ」
「…鏡夜?どうかした?」
掴まれている手首が痛い。
「…人に好きな奴が出来たら教えろとか言っておいて…」
「ちょ、ちょっと待って鏡夜。何の話?」
そう言うと竜胆の腕はパッと離された。
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