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ハルヒは貰ったチョコに手を伸ばした。なんとも高級そうな箱に入っている。空港で買える、とかそういう類ではない事がすぐに分かった。

「あぁ、食べて食べて。溶けるから早めに持ってきたのよ。蘭花さんもどうぞ食べて下さい」

「あら、ありがとう〜!高そうなチョコねぇ」

「そうでもないですよ。でも味は保証するわ。私とハニー先輩もお勧めのやつ。とっても有名なお店のなの、隠れた名店ってネ」

へぇ、隠れた名店…。ハルヒはその箱を開いて驚いた。ラズベリーの香りがする赤いハートのチョコやミルクチョコ。普段甘い物はそこまで食べないが、こうも綺麗で美味しそうだと興味がそそられる。

「竜胆先輩とハニー先輩は仲が良いんですか?」

「…今更?…ん〜まぁ、仲が良い方だと思うけど…。まずハニー先輩とは趣味が合うの。甘い物とか可愛い物好きだし。たしか最初に話しかけられた時は“甘い物好き?”だったと思う」

「それからなんとかお菓子同盟を結成したんですか」

「おいしいお菓子同盟ね。自然とだったわ。甘い物好きで今度外に食べに行こうとかそういう話をね。嬉しかったわ」

竜胆は切なげに微笑む。やっぱり彼女の笑い方はいつからか変わってしまった気がする。

「ほら、私牡丹のフリしてたでしょ?勝手な先入観で男の子は甘い物を食べないし可愛い物は嫌いだと思ってたから、学校じゃ甘い物食べれないとか可愛い物を持てない。そう決めていたけれど、ハニー先輩のお陰で私も甘い物を好きに食べられる様になったし、可愛い物も平気で持ち歩ける」

誰かになりきる、というのは大変そうだと思った。自分の好きな事を好きな様に出来ないのはとても辛いだろう。

「じゃあ、ハニー先輩に感謝してるんですね」

「そうなの!だからハニー先輩にはずっと同志で居て欲しいわね」

竜胆先輩はそう言いながらお茶を飲んでいた。小さく美味しいわね、と言いながら。ただの貰い物のお茶が彼女の口に合うはずがないのに。お土産のチョコは確かに美味しかった。色んな味があったけれど、一番目に引かれたのはハートの赤いラズベリーチョコ。甘酸っぱいそれはお茶よりもコーヒーが合うだろう。それでも美味しいんだって。

「ん?どうしたの、ハルヒちゃん。何かあった?」

そう優しく微笑む竜胆先輩の笑顔と声を聞くとやっぱりたまに泣きそうになるんだ。あの優しくて格好良かった記憶の中の母親とかぶってしまう。

「…なーんか今の竜胆ちゃん。琴子の話し方に似てたわ」

「え?」

ほら、やっぱりお父さんもそう思ったらしい。

「懐かしいわ。竜胆ちゃん!今日は夕食も食べて行きなさいよー!折角高級なお肉もあるんだし」

「いいんですか?やったー!なら、私からもお土産持ってこないといけないなぁ。ハルヒちゃん、そのお肉使って何にする?」

「えっと牛肉だから…すき焼きとか?」

「じゃあ、卵ね!今から持って来てもらおうか!」

彼女はたまに無茶をする。それでもやっぱり他の人達よりは親近感が沸くのは同じ男装部員だからだろうか。それでも、そうだとしても自分は竜胆先輩に憧れている。たまに泣きつきたくなってしまうけれど、それはしない。だって優しい先輩はきっと困ってしまうから。




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