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王女の孤独はたった一人に気付いてもらえれば解決出来る孤独だった。皆が王女を探し歩くと王女は一人桜の木に手をかけていた。
「「あっ!嘘つき王女発見―!」」
その声に驚き王女は折った桜の木の枝を隠そうとする。
「オホホ。何の事かしら?それより凄いんですのね。こーんな大きな枝が落ちて…」
王女は桜の木の根につまずき思いっきり転んだ。それには誰もが驚き皆が手を貸し、声をかける。それを聞いた王女は涙を浮かべたのだ。
「どうして…どうして親切にするの〜?何でワガママなんでも聞いてくれちゃうのよ…私は皆に嫌われて居辛くなって…そうしたらきっとお兄様が呼び戻してくれるって思って…あんな失礼な事も言ったのに…っ」
王女の願いもただ一つ。鏡夜が言っていた事は正しかった様だ。
「…私なんかの為に、あ…あんな無駄遣いして…ホテルは豪華だしバレバレの嘘ついても指摘しないし、ごはんも高級ですっごくおいしかったし〜…」
「「…どんだけ王宮で貧しい暮らししてんだ王女は…」」
「あげくの果てに象まで…あのパレードは死ぬほど恥ずかしかったわ…」
あ、恥ずかしかったんだ。それには驚きだ。竜胆としては楽しんで頂けると思っていたのに。
「「てゆーかさー。アンタの計画通りワガママを限りなくつくし皆に嫌われてんのはいいけどさ――そんな事して“お兄様”が知ったらまずアンタが叱られるんじゃないの?」」
王女の時はピシと止まり考えるとその顔はどんどん青くなっていく。
「ほんとだわ…どうしましょう…そこまで考えてなくて…わーん!お兄様に嫌われちゃう〜〜!」
王女は大きな声をあげて泣き始めた。なんとも可愛らしい王女だと思った。王女なのに王女らしくない。ただ兄と一緒に居たい普通の妹。
「私の為といいながら私の事を遠ざけてばかりでもっとお兄様のお役に立ちたいのに、私はただお兄様にもっと側にいてもらいたくて――…そうだわ!須王さん…あの人何もかもお見通しみたいだったもの…ひょっとして今ごろお兄様に私の悪事を洗いざらい…」
「環先輩はそんな事しませんよ?」
焦る王女に向かってハルヒは言った。断言だった。環と知り合いならば、誰でも分かる事。だがそれをハルヒが言った事に驚いたのだ。
「環先輩は大切な家族と別れてしまう事のつらさを知っているから、それでも前に進んで行こうとする人だから。もしかして先輩は王女が自分から気付くのを待ってたんじゃないでしょうか?お兄さんに…皆に本当の気持ちを伝える勇気を出してほしいってそうして王女に心からの笑顔を見せてほしいと―…」
環の思考はきっとそう。それで間違ってはいない。ハルヒも環をそこまで知る程の仲になっていた。
「ああ!いらっしゃいましたか王女!ステキなゲストが到着されましたのよ☆」
そうやって来たれんげの後ろにはミシェルの兄であるローランス王がいた。彼は父と母が残したものを必死に守りたかっただけ。豊かな平和な国に。そうする事が国の皆、何より守りたい最愛の妹がいつでも笑っていられるように――。王女は桜蘭に来て初めて心からの笑顔を見せてくれた。それを後ろから見て環は優しく微笑んでいた。そこにハルヒが近付いた事、ハルヒから貰った言葉が環の胸にやけに響いた事。そして環が行動を移しそうになった事等当事者以外知る事はない。
「何が見えるんだ?」
竜胆は上げていた視線を鏡夜に移した。
「ん?飛行機雲」
「…見てどうする」
「飛行機雲って儚いものだよね。空に溶けていくように消えて行くからさ。それなら自分は鳥の様に自由で一瞬を駆けて痕跡も残さない方が潔くて好き」
終
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