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「竜胆――!」

「うえっ!」

教室に入った途端に自分を襲った衝撃に竜胆は息を飲んだ。突然抱き着いてきた環の頭を軽く叩いてから耳元で声を張る。

「牡丹だと言ってるだろーが!」

痛い…と涙目を浮かべている環を引っぺがしてから竜胆はクスクスと笑うクラスメイト達を挨拶してから自分の席へと着いた。

「おい、竜胆。体調は平気か?」

「…牡丹だから。寄って集って皆さん心配性であらせられる。大丈夫だって。本当にペンキの臭いに酔っただけだから。ちなみにこれ説明するの三回目ね」

廊下で会った光邦と崇にも同じ説明をしたと言うのに。それだけ心配をかけてしまった事なのだから強くは言えないが、少々心配性なくらいだ。たかがフラついたくらいで。

「本当にそうなのか?」

「――…だからそう言ってる…」

竜胆は鏡夜を見上げると言葉はそこで止まってしまった。何せ鏡夜は本気で心配そうに自分を見ていたからだった。どうしてそんな目をするんだろうか。そうやって優しいから誤解されるんだ。竜胆はそっと目を逸らした。

「竜胆」

「…鏡夜。鏡夜は俺の事をどこまで知ってる?どうして知ってる?今回の事は本当にちょっと酔っただけ。過剰な心配はそんな疑問を膨らませるだけ」

そう言うと鏡夜は何も言わずに自分の席へ戻って行った。ズキッと痛むのは傷跡か心臓か。なんて自分は可愛くないのだろう。答えられないなら優しくしないで、そう言う様な自分の態度には嫌気がさす。竜胆は自分の席から見える空を見上げた。

――ここまで来たら意地だ。精一杯楽しんでやろうじゃないか。誰もが羨むくらいの楽しい青春の中に好きだの恋はいらない。

「環!何落ち込んでんの?ごめん、心配かけた事は謝るから体育座りはやめて」

「竜胆!」

「だから、牡丹だって言ってるだろーが!いい加減覚えろ!」

私が男だったらきっとこういう青春を送るんだ。親友を作って皆でわいわいした青春を。そしていつか皆バラバラな道へ進んで、何年後かに会って変わってないなって笑い合える様なそんな未来。

「鏡夜からも何とか言えって!そこで我関せずに読書しなーい!」

「………」

「ちょっと環。鏡夜クールぶってる。何かむかつくから鏡夜の席挟んで膝抱えてやれ」

恋?そんなものが私の中に本当にあるのならばそれは綺麗な箱に入れて綺麗なリボンを巻いてあげるよ。誰にもプレゼントなんかしないよ。だってそれは将来、こんな事があったんだ、って思い出す程度の宝箱に変わるのだから。




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