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「りんちゃん、大丈夫〜?」

「…えぇ。だいじょ――…」

その瞬間竜胆は力が抜け壁に寄りかかった。

「りんちゃん!」

「竜胆!」

「「竜胆ねぇ!?」」

誰かが近寄ってきて竜胆の体を支える中、竜胆は虚ろな目で呟いた。

「……帰り、たい」

突きつける現実は竜胆を弱くした。夢をおぼろげにさせた。誰かが言うのだ。恋に現を抜かしていては掴めるものも掴めないと。そして竜胆の手は目の前に居る好きな人すら掴めない。手を伸ばしても触れられない。今彼は別の人を見ている。それはきっと本人も自覚していない事。

――だってさ、初めて見る顔ばっかなんだもん。ハルヒちゃんと居る鏡夜は。

皆がハルヒちゃんに惹かれている。決してその中に入りたいわけではなくて、ただ彼にこちらを向いて欲しかっただけ。私を見つけてくれた彼ならばいつかは見てくれるんじゃないかという淡い希望は日に日に薄れ影を帯びる。何度も自分に言い聞かせた。今私は“牡丹”であり“男”だ。なのに彼が何度も“竜胆”と呼び私は“女”を意識せざるを得ないから。夢の途中なのだ、今は。そしてこれからも。確かに辛かった男装生活。環や鏡夜と出会い、ホスト部に入り変わった心は今また別の形でこの生活を送る自分を苦しめる。そして初めて思った。

――自分の元居た場所に帰りたい…。

毎日友達に囲まれて竜胆と呼ばれて、普通におしゃべりをして皆とおしゃれして。普通の女の子の生活が自分には確かにあったのに。……今どこに?




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