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「離せ、この…!」

「コラ笠野田ァ!てめぇ汚ねーぞ!うちの頭の坊ちゃん脅して攫った挙句こんな用心棒まで用意しやがって!」

犯人の一方的な責め苦に笠野田は何の話だか理解出来なかった。

「あのね〜狙われていたのは最初からボサノバ君なんだよねぇ〜」

「…は?」

「昨日ボサノバ君のロッカーとか机とかにガラスとカッター入ってるの崇が見つけてねぇ」

「な…なんで言わねーで…俺の事助け…」

その言葉に崇は笠野田の頭をポンと優しく撫でる様に叩いた。

「どちらが悪人かは見てればわかる。胸を張って生きてれば必ずわかってくれる人間が現れる。おまえに仲間を強く思う気持ちがあるならそれは必ず誰かに伝わっている。その事に早く気付くべきだ」

そんな事を言われても。周りを見ても誰もいない。自分の気持ちは誰に伝わっているというのだろうか。

「…ごめん、ちょっとペンキに酔ったわ…」

「すいません、大丈夫ですか?自分はとりあえず着替えて来ます」

そんな時笠野田の舎弟である鉄也が捕まっている犯人を足蹴にした。鉄也は笠野田の人柄に惚れて、自分が育った組と縁を切って笠野田組に来たという。父親と喧嘩をして家を飛び出した鉄也に傘を差してくれた笠野田に。鉄也だけではない、舎弟の皆は知っていたのだ。笠野田がどこまで優しいのかを。人一倍照れ屋で不器用な事も全部。

「こいつらの無礼は俺の責任です。でもどうか頼んます。俺をこれからも若のお側においてやって下せえ!」

ほら、もう居たのだ。君が気付いていなかっただけで。君の人柄に、中身に気付いていてくれる貴重な存在は。

「俺藤岡に謝んねーと」

「ハルちゃんなら着替えに行ったよ〜!」

「どうも!」

そうして笠野田はハルヒの後を追う様に駆け出して行った。

「うむ。よい事をした」

「「今回は殿何もしてないじゃん」」

「というのかいいのか?環。ハルヒは着替えに行ったんだぞ?」

鏡夜の一言で皆が我に返る。どうして止めてくれないわけ!?一番止めるであろう、気を遣える竜胆に視線を移せば彼女は蹲っているではないか。

「…うぅぅぅ…吐きそう…」

目に涙を溜め込んで胸元を押さえていた。




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