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「…何。暇なの、人気者の鳳君は」

「一人寂しい君の相手をしてあげようと思ってね?」

「一人寂しい?確かに俺は一人だけど、君は独りでしょう。…は、笑える。鳳君ってバカで」

バカと言われたのは生まれて初めてだった。学力的な意味ではないソレ。不敵に笑いながら言うそれは中に深い意味を込められていた。そもそもそんな事を言われる筋合いはない。

「…そんなにバラして欲しいのか?」

「ふ、悪い顔しちゃって。そんなに言い当てられた事が悔しい?そう言い返してくる辺りが子供」

図星を言い当てられて俺の苛立ちはピークに達した。再びその腕を掴んで俺は空き教室へと入った。

「…口じゃ勝てないなら実力行使?」

「そこらへんのお嬢様より口達者でいらっしゃる」

「…何が言いたいワケ?」

生憎俺はお嬢様やご子息との付き合い方しか知らない。どう考えてもこんな事をしている人間と関わる事等無いのだ。接し方すら分からない。こんな無茶をしているくらいだ。こいつは余程のバカに違いない。

「…あのさー鳳君。君疲れない?毎日毎日愛想笑いしながら誰かに付き纏われて。息苦しくならない?」

「……本望だよ」

「そうやって人脈掴む事が?愛想笑いで掴める人脈なんて高が知れてると思うけどね」

確かに。愛想笑いなんて疲れるし、普通なら通用する営業スマイルもこちらのお嬢さんには通用しないらしい。俺は表情を崩してしまった。

「お前に分かるはずがないだろう?」

「…何だ、人間らしい表情出来るじゃん。安心した。どこの改造人間かと思ってた」

彼は小さく笑った。あのつんけんしていた態度は一変していた。崩される俺のリズム。俺が見たかったのはきっとコレ。

「…鳳君て三男なんだってね?噂で聞いた」

「…だから?」

「“だから”は君でしょう?“だから”君は愛想笑いを覚えてしまった。悪い顔見せる事は無いと。だから君の中の君はいない。人間それじゃ疲れるよ、絶対ね。断言してあげる。君そのままの生活してたらいつか壊れる。その時には隣に誰もいない。何故なら君はいつも自分と他人と分けて見下しているから」

――…何だって言うんだ。この人間は。今までまともな会話もしてこなかったと言うくせにやけに饒舌。そして突きつける事実は抉られる痛みを俺に与えた。

「そもそも君はどうして俺に絡むワケ?目立つような事してないよね?」

「…お前が誰かを探してる様に見えた」

ぽつりと言ってしまった言葉は取り返せずなんて失態を犯してしまったと思った。が、目の前の柊牡丹は驚いた表情を浮かべていた。

「…鳳君。ありがとう。君は私を見てくれた、それだけで嬉しい。でも、君にはまだ何も話せない。もう少し見定めてからにするね」

俺の横を通りすぎた柊牡丹はニコリと微笑んだ。外に浮かんだ夕日に照らされた“柊牡丹”を名乗る人間は綺麗過ぎて、自分を持っていて、素直に物を言えるそれを羨ましいと思った自分が居た。そして自分の本性をすぐに見破られた事に驚いた。何年も一緒に居ても気付かない人間も居ると言うのに。それで気付く。

――違うだろ、お前が俺を見てたんだろうが。




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