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「一方お祖母様は須王家の跡取りがいない事にさすがに焦り始めました。そんな折、タマちゃんのお母さんの実家は事業に失敗し、一気に多額の負債を。そこでお祖母様は提案しました」
「“この先不自由なく暮らせるだけの金の工面はしてやろう。そのかわり環だけを日本によこせ”“そして金輪際母親と環が会う事を禁止すると”」
宣告はとても冷たいものだった。もう二度と会う事の出来ない親子。引き裂かれた親子。だからこそ環は大きな憧れを抱いていた。
「そんな条件…」
「須王の当主は理事長だけれど、実際の最高権力者は会長職であるあのお祖母様なんだよ」
それに加えて環の母は体が弱い。須王の援助無しで路頭に迷えばどうなるかは知れている。迷う母親に決断したのは環の方だった。環は一人で日本に行く決意をしたのだ。
「寂しさからか…それとも環を金と引き換えにした自分を責めた為か母親はその後身を隠すようにどこへ移り住んだらしい。まあ、理事長の事だ。密かに居場所くらい掴んでいるだろうが…」
「あのバーさんも引き取ったんなら殿を認めればいいのにさ」
「息子を唆したフランス女への恨みが未だ消えないってわけ」
「…人の事おしんとか言っておいて…」
自分よりも辛い状況にいるじゃないか。そう思ったハルヒに諭すような鏡夜の優しい言葉。
「同情するなら簡単だが、でも俺は環が環でよかったと思うんだよ」
だって彼が彼じゃなかったら今皆はこうやって集まっている事はなかっただろう。楽しく笑い合う事も喧嘩する事もない、ずっと知らない他人のまま。救われない心を抱いたまま。そんな思いがあるからこそ環が大事で、そんな思いがなかったとしても大事な仲間で仕方ない。
「さて!久しぶりにハルヒちゃんで遊ぼうかな」
「ナイス竜胆ねぇ!」
「僕らもそう思ってた!」
竜胆と光馨はメイク道具を取り出し、ハルヒをドレスアップさせた。やっぱり元が良いから可愛くするのが楽しくて仕方ない。女装だとしても人が多いからバレたりはしないだろう。竜胆は変身したハルヒを見て満足気に微笑んだ。
終
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