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「そちらは確か――…」

「彼は柊牡丹です」

「お初にお目にかかります。柊牡丹と申します」

竜胆は恭しく頭を下げた後優しく微笑んだ。それは知る者からすれば不敵な笑みとも言える。

「柊家のご子息か。息子がいつも世話になっているようですまないね」

残念、娘でした。竜胆は心の中で呟いた。

「いいえ。僕が鏡夜君にお世話になっているのです。むしろ鏡夜君がいなければ部は成り立っていないでしょうから」

竜胆は小さく頭を下げて失礼しますと言おうとする前に鏡夜の父の周りに人だかりが出来てしまった。挨拶も無しに抜けられるわけもなく竜胆は離れる機会を伺っていた。

「本当に御立派な息子さんですこと。今年の中央棟サロン争奪戦は、それはもう大規模だったと聞きますわ」

「いや素晴らしい」

「作戦は鏡夜さんが立てられたという噂もありますわ。本当に御聡明ですこと。学年主席といえどこれはまた別の才が必要な事ですから」

「いえ、とんでもない。僕はただ有能さ部員達をサポートするくらいしか…生憎人の上に立つよな度量は持ち合わせていないもので…」

いけしゃあしゃあと言う鏡夜を見て竜胆は驚きのあまり声をあげそうになった。腹の内ではそんな事を微塵も思っていないくせに…!

「まぁ御謙遜を」

鏡夜の父は鏡夜に近付き小声で話しかける。近くに居た竜胆もこの騒ぎの中で所々しか聞き取れない。“花を持たせる”“上出来”“須王”その三つだけで鏡夜の父が何を言ったのか分かってしまった事が少しばかり悲しく思えた。

「ホスト部だなんて正直最初は驚きましたけれど…」

名前が名前なだけに印象は悪いかもしれない。

「いやいやこの時代人々の意表をつくのも大事な一手ですよ。私は実力主義を標榜しておりましてね、才あらば…そう、たとえ三男であろうと跡を継がせてもいいと考えておりましてね」

それを聞いて鏡夜は微笑んだ。それを間近で見る竜胆も何も言わずに微笑んだ。ゲーム運びが随分と上手だこと。竜胆と鏡夜はホスト部員達を探して中央棟広間から抜け出して少し歩いた所で竜胆は立ち止まり、片手を上げている。

「何だ?」

「ハイタッチ。任務完了おめでとう。これからの鏡夜の成功を願って。後両親が私の本気を信じてくれている事に」

そう言われればハイタッチせざるを得ない。鏡夜は竜胆の手のひらと自分の手のひらを合わせた。そこには軽快な音が響いた。

「おめでとう、鏡夜!自分の事の様に嬉しい」

「竜胆こそ、おめでとう」

物陰で微笑み合う二人を照らすのは太陽の光が燦々と。




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