59 (2 / 3)
竜胆は見かけた自分の両親に向かって軽く手を挙げた。そしてそれに気付いた両親は竜胆に近寄ってくる。鏡夜は二人を見てモデルの様な夫婦だと思った。父親も母親も背が高い。竜胆の背の高さも頷ける。
「昨日の中央棟サロン争奪戦は凄かったらしいな。白熱した戦いだったと聞いたよ」
「でしょう?それもこれも全て副部長である彼のお陰」
竜胆の雑な紹介に鏡夜は少しばかり驚くもそれを顔に出す事はなく小さく頭を下げた。
「お初にお目にかかります、鳳鏡夜です。牡丹さんには大変お世話になっております」
「いや、君が鳳君か。作戦は君が立てたのだと噂になっていますよ。素晴らしい才能をお持ちの様で」
「光栄です」
否定はしないのか、竜胆は横目で鏡夜をじっと見た。そして両親の視線が竜胆に移る。
「それで?順調かな?」
「はい、お父様お母様。牡丹は順調にこなしていますよ」
「随分と熱心に仕事しているらしいじゃないか?お陰でうちの製品は桜蘭生徒からの人気が爆発的だ」
「それも成果の一つ。目に見える方がよりらしいでしょう?」
与えられた事だけじゃない。自分に出来る事は何でもしてあげる。それが私の本気。それに気付いていますか?
「…ま、喜ばしい限りだな。すごいな、竜胆」
父親は竜胆の頭を優しく撫でた。それに対して竜胆は微笑んだ。
「成功時には約束、守って頂きますからね」
「は、それはどうかな?」
父親が鼻で笑った事に対して竜胆の笑顔がピタリと固まった。額には怒りマークが浮き出ている。多分この顔を見て遊んでいるに違いない、そう環の父の様に。
「…ふざけないでよ、くそじじい」
竜胆は笑顔で小さく呟いた。
「こら。口が悪いわよ。お父様に向かってなんて口の聞き方を――」
「今は周囲の目があるので大事には出来ませんが、本来ならば確実にネクタイ締め上げてますよ」
そう言いながら竜胆は笑顔で父親の足先を踏みつけていた。
「ははは、とんだじゃじゃ馬だ」
「えぇ、だってお二人の子供ですから」
娘の頭を力づくで押さえようとする父とそれに耐えながらもグリグリと父親の足を踏みつける娘。こんな家族関係もあるのか、と鏡夜は少しばかり驚いた。この親あっての竜胆なのか、と妙に納得出来たが。
「頑張ってるわね、竜胆。貴女の本気見せてね」
母親は竜胆の頭を撫でた後微笑んでいた。
「所で柚葉ちゃんは?来ているわよね?」
「子供より柚葉ちゃんか」
「あら、違うわよ?最近忙しくて会う機会がなかっただけよ」
なんとも幸せそうだと思った。竜胆が小さく舌を出して両親を見送った後声がかけられた。
「鏡夜」
そこに居たのは鏡夜の父だった。
[
prev] [
next]
[
bkm] [
TOP]