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「…僕は状況を作っただけです。あそこで環がアメフト部部長の足に追いつけるかは賭けでしかなかった。でも、俺はそういう“強運さ”もあいつの実力だと思っていますから」

自分達を慰める事はいつだって出来た。だけれど環が戦うのなら自分達も負けてはいられない。応援したくなる。自分も頑張るから君も頑張って。そうやってお互いを高めていく。

「行くぞ、竜胆」

「そうね」

寄りかかっていた壁から体を起こし、竜胆は鏡夜の隣を歩いた。

「鏡夜って環の事大好きね」

「…はぁ?気持ち悪い事を言うな」

「少し妬けるわ。皆高みを目指している。お互いを土台にするんじゃなくて、まるでお互いがお互いを引っ張り上がって行くみたい」

自分もそこに辿りつけるだろうか。今踏み出している一歩は間違いではないのだろうか。竜胆は立ち止まった。今更後悔なんてしていない。ここにいなかったら私は絶対に後悔していたはずだから。

「……竜胆、来い」

鏡夜が伸ばしている手に竜胆は呆然とした。

「…ついでだ。お前を引っ張ってやる事くらい簡単だしな」

足が自然と動いて竜胆の手は鏡夜の手を取った。それでもまだ呆然としている竜胆に向かって鏡夜は小さな笑みを浮かべる。竜胆はその顔を見てから我に返り顔を隠すように下を向いた。

「何だ、照れているのか?」

違うわよ。泣きそうなのよ。嬉しくて、胸が痛くて、感動してしまって、私はいつからこんなに単純になってしまったのだろう。彼の一言がこんなにも自分を簡単に動かすのだ。そして泣きそうなのには理由がもう一つ。不器用な優しさを言葉に隠す彼の事が好き過ぎて辛いから。




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