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「ハルヒ。複雑に思えるものほど実はシンプルだったりその逆のケースもある。そしてデータが複数だからといって全て繋げる事が必須とは限らないだろう?」

「え…」

「それはさておき、争奪戦当日までにこれを覚えておけよ?」

ずしりと重い紙の束にハルヒは驚いた。

「何ですか?」

「学院の見取り図だ」

ハルヒはそれを覚える為に校内を必死に走り回る事になる。

「ねぇ、鏡夜。随分と中途半端なヒントね」

「…そもそもお前は何故気が付いた?」

「そりゃ気付くでしょ。紙が丸っきり違うし、第一匂いよ」

「匂い?」

「アロマの香りと本物のみかんの香り」

「…お前の嗅覚は犬並か」

鏡夜という人間は失礼な言葉を選ぶプロだと思った。そういう選手権があったなら絶対に優勝するわね、心の中で呟くと鏡夜の手が竜胆に伸びてくる。

「なにひゅんろよ」

「いや、お前が失礼な事を考えているんじゃないかと思ってね?」

何で分かるのよ。分かられ過ぎて逆に恐ろしいわ。そして竜胆は心の中で呟いてみた。
――鏡夜、好き。

「…何だ?何故睨む」

言葉にしないと大事な事は伝わらないと言うのは本当で、声に出さなきゃ意味がない、なんて事は思いたくなかった。声に出来ないけれど確かに持っている思いを伝えるのは難しいだけ。

《さあ、いよいよ学祭前のビッグイベントが翌日に迫ってまいりました!ホスト部VSアメフト部に触発されふくれ上がったエントリー団体は過去最多の18組!総人数にして132名!勝者には間違いなく桜蘭史に残る栄誉が与えられるでしょう!》

放送部の明るい声を聞きながら竜胆はゆっくりと目を閉じた。その隣では鏡夜がキーボードを打つ小さな音。竜胆はソファーに寝転んでクッションを抱きかかえていつでも寝れる体勢。鏡夜の小さな溜め息が聞こえて竜胆は起き上がろうと思ったが足音が聞こえて再び目を閉じた。そこの流れるのは優しい空気、大事な友達。特別な空間に竜胆は眠りに誘われる。

「…三男のプレッシャーというのも大変ですなあ、母さんや?お肩でもおもみしましょうか?」

「頼みますよ父さんや。…なんの結構楽しんでますよ」

「…芙裕美さんがな、心配してたぞ。無理してんじゃないかって」

「心配御無用。それより環、明日は勝つぞ。それで庶民グルメマップとやらの選り抜きの店にでも招待してもらおうか?」

「まかせておけ!」

環はそう言いながら微笑み隣のソファーに寝ている竜胆に目が行った。彼女はクッションを抱えたまま寝息を立てている。

「…随分と心配されている様だな?」

皮肉めいた環の言葉に鏡夜は小さく微笑み立ち上がった。

「俺の周りには過保護な奴が多いもんでね」

鏡夜はブレザーを脱いで竜胆の体に掛け、優しく髪を撫でた。




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